南城市における行政刷新とDX推進を通じた地域価値創造戦略
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スリム化・低コスト化と「アップサイクル」思想の融合南城市における新時代の地方自治モデル:背景と基本方針
沖縄県南城市は、美しい自然環境と豊かな歴史文化を背景に持ちながら、少子高齢化や労働力不足といった現代の地方自治体が直面する深刻な課題に対峙している。
こうした状況下で、持続可能な都市運営を実現するためには、従来の行政の延長線上ではない、抜本的な「市政の刷新」と「しがらみの打破」が不可欠である。
南城市が掲げる政策の核心は、行政組織の徹底的なスリム化とデジタル・トランスフォーメーション(DX)を両輪とし、限られた費用で最大限の効果を創出する戦略的な投資にある。
さらに、このプロセスを通じて得られる副次効果を、単なる効率化に留めず、既存の資源に新たな価値を付加する「アップサイクル」の思想として具現化することを目指している。
南城市の財政状況を俯瞰すると、令和5年度における基金残高は、歴史文化観光資源基金や公共施設等総合管理基金を含め、合計で約92億円から99億円規模で推移している 。
これは一定の財政的基盤を示唆する一方で、将来的な人口減少と社会保障費の増大を鑑みれば、現在の資源をいかに効率的に、かつ付加価値の高い方法で活用できるかが問われている。
職員数については、平成27年の337人から、令和7年には350人への微増が計画されており、これは多様化する行政ニーズへの対応と、定員適正化計画に基づく管理の結果である 。
しかし、単純な人員増ではなく、デジタル技術による業務代替と、高度な専門性を備えた外部人材の活用によって、実質的な組織の機動力を高めることが急務となっている。
南城市が目指す「しがらみ」のない透明な行政運営、DXによる組織のスリム化、そして地域資源を再定義するアップサイクル戦略は、相互に補完し合う三位一体の政策体系を成している。
本報告書では、これらの戦略的関連性を紐解き、国内外の先進事例を交えながら、南城市が拓くべき具体的な道筋を詳細に分析する。
市政刷新としがらみ打破:透明性の向上と意思決定のデジタル化
伝統的な地方自治においては、特定の利害関係者との「しがらみ」が意思決定の障壁となり、政策の柔軟性や効率性を損なう要因となることが少なくない。
南城市が推進する市政刷新の第一歩は、この構造的な課題をデジタル技術によって打破することにある。
これは単なるシステムの導入ではなく、行政の意志決定プロセスそのものをオープンにし、市民との信頼関係を再構築するプロセスである。
デジタル民主主義と意思決定の透明化のメカニズム
意思決定プロセスの透明化は、特定の団体や個人による影響力を相対化し、市民全体の利益に資する政策立案を可能にする。
世界的に導入が進んでいる市民参加型プラットフォーム「Decidim」は、その中核的な役割を果たす。Decidimは、2016年にバルセロナで誕生したオープンソースのプラットフォームであり、予算案の策定や政策立案のプロセスに市民が直接関与し、進捗を可視化することを可能にする 。
日本国内でも兵庫県加古川市を筆頭に、約20のサイトで利用されており、プロセスのフェーズ(情報提供、アイデア収集、議論、投票、結果の公表)を明確に分けることで、意思決定の透明性を担保している 。
南城市においても、DX推進計画の中で「利用者目線」を基本姿勢として掲げており、市民や事業者を含む多様な主体の声をデジタルを通じて直接拾い上げる体制の構築は、不透明な「しがらみ」を排除するための最も強力な手段となる 。
エビデンスに基づく行政運営(EBPM)の徹底
「しがらみ」を打破するためのもう一つの鍵は、主観や慣例を排除し、客観的なデータに基づいて判断を下す「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の徹底である。
南城市デジタル田園都市構想においては、AIカメラ、Wi-Fi、観光アプリ等から収集された移動データを活用し、エビデンスに基づいた交通施策や観光振興策を検討・実施する方針が示されている 。
データ利活用の基盤整備は、行政内部の意思決定の質を高めるだけでなく、市民への説明責任を果たす上でも極めて重要である。三重県が導入したデータ連携基盤「MIEROPA」のように、県内自治体が共同で利用できる仕組みを構築することで、個別の自治体では困難な高度な分析が可能となり、効率的な資源配分が実現する 。
| 施策カテゴリー | 目的 | 具体的な手法・技術 |
|---|---|---|
| 意思決定の透明化 | 特定利害関係の影響排除 | Decidim等の市民参加型プラットフォームの導入 |
| 政策立案の科学化 | EBPMの推進 | AIカメラ、Wi-Fiパケットセンサーによる人流データ分析 |
| | データ基盤の構築 | 広域連携と効率化 |
| 行政情報の公開 | 市民の監視と信頼構築 | オープンデータダッシュボードの活用 |
このようなデジタル技術の導入は、行政が抱える「ブラックボックス」を解消し、しがらみのない健全な市政運営を実現するためのインフラとなる。
行政組織のスリム化とBPR:効率化の極大化戦略
行政組織のスリム化は、単なる職員数の削減を目指すものではない。それは、業務プロセスそのものを再設計(BPR: Business Process Re-engineering)し、付加価値の低い「ノンコア業務」を徹底的に排除・自動化することで、職員がより創造的で対人支援が必要な「コア業務」に専念できる環境を作ることである。
業務プロセス再設計(BPR)の成功要因と定量化
BPRの実施にあたっては、既存の業務フローを可視化し、定量的な評価を行うことが不可欠である。
北海道札幌市では、民間企業と連携してタスクの業務量調査を行い、人的コストを可視化・定量化することで、業務の効率化を達成した 。
また、佐賀県佐賀市では、財政状況の厳しさを背景に事業の抜本的な見直しを行い、ごみ焼却炉の建設費を予定価格より100億円削減し、水道事業の共同化によって80億円を節減するといった劇的な成果を上げている 。
これらの事例から導き出されるのは、BPRは単なるデジタル化の手段ではなく、組織の在り方そのものを問い直す変革であるという点である。
南城市においても、DX推進計画の中で「行政のコスト・リスクの低減」を基本方向の一つとして掲げており、デジタル技術を活用した業務効率化による生産性の向上が強く求められている 。
スリム化を実現するための外部リソース活用
自庁で全ての業務を完結させるのではなく、専門的な組織や民間リソースを戦略的に活用することもスリム化の重要な要素である。
佐賀市の事例では、在宅勤務のルールを作成して職員のPCモバイル化を推進し、2020年度には職員の勤務時間を約2,620時間削減した 。
さらに、ノンコア業務を「行政事務センター」に集約してアウトソーシングすることで、深刻化する労働力不足を解消し、職員をより専門性の高い政策立案業務へシフトさせることに成功している 。
南城市における人事構成を見ると、3級(主査・主任級)が24.9%を占め、現場の中核を担う層が厚い一方で、管理職層への負荷も大きい 。
これらの層が事務的な定型業務に追われることなく、市民サービス向上に直結する業務に専念できる環境を整えるためには、RPA(Robotic Process Automation)の導入やBPRによる業務の整理、さらには民間プロフェッショナル人材の登用が不可欠である。
| BPRのアプローチ | 内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| タスクの可視化 | 業務量調査と人的コストの定量化 | 無駄な工程の特定と資源の再配分 |
| | 業務の集約化 | 行政事務センターへのアウトソーシング |
| | 働き方の改革 | テレワークとモバイル化の推進 |
| | プロセスの民主化 | 住民・職員目線の両面からの見直し |
低コストで効果を最大化するDX戦略
予算の制約が厳しい小規模自治体にとって、高額な専用システムの開発や大規模なベンダー委託は現実的ではない。南城市が目指すべきは、既存のツールやオープンソース、汎用的なクラウドサービスを巧みに組み合わせた「低コスト・高効果」のDXである。
ローコード・ノーコードツールの活用による内製化
高額なベンダー委託を避け、現場の職員が自らシステムを構築・改善できるローコード・ノーコードツールの活用は、コスト抑制とスピード感のある改革を同時に実現する。
兵庫県神戸市では、公用車管理の日報をノーコードツールのkintoneで電子化し、わずか3ヶ月で年間5,000枚の紙を廃止、車検切れゼロの徹底管理を実現した 。
静岡県焼津市では、ふるさと納税の品目管理に同ツールを導入し、80品目の登録作業を2週間から1日に短縮、寄附データ50万件の自前分析を可能にしている 。
| 自治体名 | 導入ツール | 具体的な成果 |
|---|---|---|
| 兵庫県神戸市 | kintone | 公用車の日報を電子化。年間5,000枚の紙を廃止し、管理ミスをゼロに |
| 静岡県焼津市 | kintone | ふるさと納税の品目管理を効率化。作業時間を2週間から1日に短縮 |
| 茨城県下妻市 | - | 「ノーコード宣言シティ」として職員による内製化を推進 |
| 静岡県島田市 | PowerApps | 子育て支援プラットフォームを構築 |
| 千葉県市原市 | Power Platform | 職員主導の内製DXにより業務効率を向上 |
これらの事例は、専門的なプログラミング知識がなくても、業務課題を熟知した職員自身が改善を行うことで、極めて高い投資対効果(ROI)が得られることを証明している。
RPAとAI-OCRによる定型業務の自動化
大量の紙書類や入力作業が残る行政業務において、AI-OCR(光学文字認識)とRPAの組み合わせは、職員の負担を劇的に軽減する。
札幌市では児童手当業務のRPA化により、12万件超の支給認定業務を1件あたり20秒で処理することに成功した 。
恵庭市では税務課業務において年間1,100時間、長岡市では全庁展開により年間18,603時間の削減を実現している 。
南城市においても、マイナンバーカードを活用した「書かない・待たない・行かなくて良い」市役所の実現を目指しており、オンライン申請のバックエンドでこれらの技術を活用することで、フロント(住民サービス)とバック(内部事務)の両面で効率化を達成することが可能である 。
外部プロフェッショナル人材の戦略的登用
高度なDXを推進するためには、庁内の人材育成に加え、民間での実務経験を持つプロフェッショナル人材を副業・兼業の形態で受け入れることが効果的である。
副業人材の報酬相場は月額6万〜9万円(時給約3,000円、月20〜30時間稼働)程度であり、常勤職員を新規に雇用するよりも圧倒的に低コストでありながら、最新の技術トレンドや他地域での成功事例を直接導入できるメリットがある 。
内閣府が後押しする「まち・ひと・しごと」事業の一環として、すでに累計100社を超える企業や自治体での活用が始まっており、DXの戦略立案や具体的な実装において、プロフェッショナルな視点が不可欠となっている 。
南城市においても、ICTアドバイザーなどの派遣制度を活用し、職員が自らDXを進めるための「伴走型支援」を受けることで、持続可能な内製化体制を構築できる 。
副次効果としての「アップサイクル」思想の具現化
南城市の政策戦略において最も独自性が高いのは、行政の効率化やDXの推進を単なるプロセス改善に留めず、そこから生まれる余力や資源を「アップサイクル(創造的再利用)」という思想に昇華させている点である。
これは、廃棄されるものや低価値の資源に、デジタル技術やデザイン、新たなアイデアを加え、元の製品よりも高い価値を持つものに作り替える持続可能なアプローチである。
地域資源のアップサイクル:さとうきび「バガス」の価値転換
南城市を含む沖縄県の基幹産業であるさとうきび産業において、製糖過程で発生する搾りかす「バガス」は、年間約20万トンという膨大な量が排出される未利用資源であった 。
これを単なる廃棄物や低価値の燃料として扱うのではなく、高度な技術によって高付加価値な製品へと転換する取り組みが、南城市が目指す「アップサイクル」の象徴的事例である。
* 製造プロセス: 県内の製糖工場から排出されたバガスをパウダー化し、岐阜県の美濃和紙の技術を用いて和紙に加工。さらにこれをマニラ麻やコットンと撚り合わせることで「バガス和紙糸」を生成する 。
* 製品化とブランド: この生地を用いた「アップサイクルかりゆしウェア」は、吸湿速乾性に優れ、独特の肌触りを持つエシカルな製品として展開されている。沖縄県内の衣類縫製品工業組合と連携し、廃棄される端切れをデザインに活かすなどの工夫もなされている 。
* 環境・経済的波及効果: この取り組みにより、これまでに310,400kgもの高環境負荷素材が削減されたと推計されている 。また、衰退するさとうきび産業に新たな収益源をもたらし、伝統工芸のリブランディングにも寄与している 。
南城市は、この「バガス・アップサイクル」を、デジタル田園都市構想における「地場産業のDX」と結びつけることで、製品のライフサイクル管理やストーリー性のあるマーケティングを強化し、市民所得の向上へとつなげることができる。
空間資源のアップサイクル:廃校等の低利用公共施設の利活用
少子化によって生じる廃校は、維持管理コストが発生する「負の遺産」となりかねないが、これを新たな地域拠点として再定義することで、多大な社会的・経済的価値を生み出すことができる。
全国の自治体では、廃校を単なる箱としてではなく、地域の課題解決や新産業創出のプラットフォームとしてアップサイクルしている事例が豊富にある。
| 元の施設 | アップサイクル後の用途 | 事例(自治体名) | 特徴・効果 |
|---|---|---|---|
| 小学校 | 水族館(むろと廃校水族館) | 高知県室戸市 | 屋外プールを大水槽として活用し、観光客を誘致 |
| 小学校 | 道の駅・宿泊施設 | 千葉県鋸南町 | 教室を客室、体育館を市場に。地域のハブ機能 |
| 中学校 | 地域防災・複合交流施設 | 北海道利尻富士町 | 頑丈な建物を活かした避難所・地域交流拠点 |
| 小学校 | 醸造酢・酒造工場 | 兵庫県養父市・熊本県 | 地域の特産品生産拠点として産業振興に貢献 |
| 小学校 | ドローン操縦士養成教習所 | 茨城県高萩市 | 新産業(ドローン)の人材育成拠点として活用 |
| 小学校 | 介護・福祉施設 | 岩手県西和賀町 | 地域福祉に根ざした小規模多機能ホーム |
南城市においても、これらの事例を参考に、廃校をワーケーション施設 、歴史文化体験拠点 、あるいは自動運転やスマート農業の技術検証フィールドとしてアップサイクルすることが、コストを抑えつつ最大の社会的効果を生む戦略となる。
デジタル田園都市構想と連動した産業・交通の高度化
行政のスリム化によって生み出されたリソースは、地域の未来を担う「攻め」の分野へと再投資される。
南城市が策定した「デジタル田園都市構想」は、その再投資先を具体化したものである。
交通インフラのDX:Nバスと自動運転の融合
公共交通の維持は、地域の回遊性を向上させ、高齢者の移動権を確保する上で不可欠な行政サービスである。
南城市は、コミュニティバス「Nバス」を核としたMaaS(Mobility as a Service)の推進に注力している。
* 自動運転バスの導入: 運転手不足の解消と安定運行を目指し、電磁誘導線方式を活用したレベル4自動運転バスを導入。これにより、二次交通の課題解決と地域の賑わい創出を図っている 。
* オンデマンド交通とAI分析: AIを用いた渋滞予測情報の配信や、アプリを活用したパーソナライズ情報のプッシュ通知により、利用者の利便性を向上させる 。
* デジタルデバイド対策: QRコードによる簡単なタクシー手配サービスなど、スマートフォン操作に不慣れな層でも利用しやすいインターフェースを提供し、全市民が恩恵を受けられる仕組みを構築している 。
第一次産業のスマート化と所得向上戦略
農業・漁業の従事者が多い南城市にとって、産業のDXは市民所得の向上に直結する。
* 作業負担の軽減: アシストスーツ、自動栽培ロボット、自動収穫機などの導入支援を行い、過酷な労働環境を改善する 。
* 安定生産の実現: IoT環境センサーを導入し、温度・湿度・日射量などのデータと育成状況の関連性をAIで分析。熟練者のノウハウを形式知化し、新規就農者の早期定着を支援する 。
* 販路拡大とブランド化: ライブ配信(ライブコマース)による直接販売や、視聴・購入データの分析に基づく精密なマーケティングを実施。アップサイクル製品(バガス製品等)との相乗効果を狙う 。
結論:南城市が拓く「持続可能なアップサイクル型自治」の未来
南城市が推進する「市政刷新・しがらみ打破、行政組織のスリム化とDX、そしてアップサイクル思想の具現化」という一連の政策は、互いに独立したものではなく、強力な因果関係によって結ばれた、循環型の発展モデルを成している。
* 市政の刷新としがらみの打破によって、透明性の高い、エビデンスに基づいた公正な行政運営の土壌を整える。
* 行政組織のスリム化とDXを低コストで推進し、定型業務を自動化することで、人的・財政的な余力を創出する。
* 創出された余力を、アップサイクルという思想に基づき、バガスや廃校、歴史文化といった「既存の資源」に新たな価値を付加するプロジェクトへと戦略的に再配分する。
* その結果、市民の幸福度(Well-being)が向上し、新たな産業と雇用が生まれ、持続可能な財政基盤が強化される。
費用を抑えつつ効果を最大化する戦略の要諦は、高額なハードウェアの所有ではなく、データの利活用、職員のデジタルスキル向上、そして外部の専門知を柔軟に取り入れる「オープンな姿勢」にある。
南城市が目指す「デジタル活用で人にやさしい住みよいまち」 は、先端技術を誇示する都市ではなく、技術を使いこなして地域本来の魅力を最大化する「アップサイクル型自治体」の先進モデルとして、日本全体の地方創生に重要な示唆を与えるものである。
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