政治的しがらみの打破から「アップサイクル」思想の具現化まで

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南城市における行政刷新と持続可能な都市経営戦略

序論:南城市の転換点と新たな統治パラダイムの構築
沖縄県南東部に位置する南城市は、2006年の佐敷町、知念村、玉城村、大里村の合併を経て、琉球開闢の聖地としての歴史的アイデンティティと、「田園文化都市」としての発展を模索してきた。

しかし、2020年代半ば、同市は自治体経営の根幹を揺るがす深刻な政治的混乱と、それに伴う市政刷新の必要性に直面することとなった。

2025年に起きた前市長の失職と、その後の新市政の誕生は、単なるリーダーの交代に留まらず、南城市における「統治のあり方」そのものの抜本的な再定義を求める市民の意志の現れである 。

本報告書は、南城市が掲げる「市政刷新・しがらみ打破」の背景にある政治力学を分析し、限られた財源の中で行政効果を最大化するための戦略的施策評価(PDCA)の運用、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた事務改善、そしてこれら一連の改革の副次効果として期待される「アップサイクル」思想の具現化について、専門的な知見から包括的に考察するものである。

南城市の事例は、地方自治体が人口減少と財政制約の中で、いかにして「しがらみ」という見えないコストを削減し、地域の既存資源を新たな価値へと転換できるかという、日本の地方自治における先導的なモデルケースとなり得る。

第1章:市政刷新と「しがらみ打破」の政治的背景
南城市における「しがらみ打破」という言葉が持つ重みは、2025年に展開された政治的対立のプロセスを抜きには語れない。

特定の有力者や組織団体、政党の利害に束縛されない「市民中心」の市政への回帰は、行政の信頼性を回復するための唯一の選択肢として浮上した。

政治的混乱の経緯と不信任決議
2025年、前市長を巡るセクハラ問題が取り上げられ、これが市政を停滞させる最大の要因となった。

第三者委員会による事実認定がなされた後も、市長が辞職を拒否したことで、市議会との深刻な対立が生じた 。

この過程で、市議会は累計4回にわたる不信任決議案を審議する事態となり、2025年9月には最初の不信任案が可決された。

これに対し市長は、議会の解散という強硬手段を選択したが、この決定は「選挙費用の無駄遣い」であるとして、市民から激しい批判を浴びることとなった 。

| 2025年 南城市政治動乱のタイムライン | 出来事の概要と政治的影響 |
|---|---|
| 2025年9月 | 市議会による1度目の不信任決議可決。古謝市長は対抗措置として議会を解散 。 |
| 2025年11月9日 | 出直しの南城市議会議員選挙。定数20に対し25人が立候補 。 |
| 2025年11月10日 | 市議選の結果、不信任支持派の候補18人が当選。事実上の「民意の審判」が下る 。 |
| 2025年11月17日 | 新議会での初会合。再度不信任決議が可決(賛成17票)され、古謝市長が失職 。 |
| 2025年12月21日 | 出直し市長選挙。新人・大城憲之氏が「市政刷新」を掲げ初当選 。 |

この一連のプロセスは、市民が「不透明な政治決定」や「特定の有力者への忖度」を明確に拒絶したことを示している。

当選した市議会議員の多くが「不作為の議会を終わらせ、正しい道理を通すべきだ」と主張したことは、南城市における「しがらみ」がもはや行政運営の阻害要因として認識されていることを証明している 。

大城憲幸市政が掲げる「協同の市政」
2025年12月に誕生した大城憲幸市政は、「組織団体や政党に頼らない」ことを基本方針として掲げた。

これは、選挙戦の段階から「南城市を一つにする」ための戦略的な選択であり、与野党や派閥を超えた「協同の市政」を構築することを目的としている 。

「しがらみ打破」の具体的な内訳としては、以下の3つの側面が挙げられる。
 * 政治的自立: 特定の支持団体や政党の利益誘導に屈しない政策決定プロセスの確立。
 * 組織の透明化: セクハラ問題などの不祥事を二度と起こさないための組織風土改革と、被害者救済の徹底 。
 * 市民参画の再定義: 一部の声の大きい層だけでなく、サイレント・マジョリティのニーズをデータに基づき汲み取る仕組みの導入。

新市長が「選挙のやり方から変えていきたい」と訴えた背景には、特定の利害関係に縛られた構造が、結果として市の予算執行の柔軟性を奪い、真に効率的な政策検討を妨げてきたという洞察がある 。

第2章:費用対効果を最大化する行政経営戦略
南城市の行政運営は、限られた予算をいかに効率的に分配し、市民サービスの効果を最大化するかという「経営的視点」を重視している。

これは、第2次南城市総合計画の後期基本計画および第4次行政改革大綱において明確に定義されている 。

財政構造の現状とコスト意識の欠如への危機感
南城市の財政規模は、2019年時点で歳入257億9,979万円、歳出242億9,626万円となっており、人口は約4万2,016人である 。

一見すると安定しているように見えるが、生産年齢人口の減少と高齢化(65歳以上人口割合31.8%の予測等)は、将来的な税収減と社会保障費の増大を予見させる 。

前市政期に批判を浴びた「無駄な選挙費用」は、市民のコスト意識を鋭敏にさせた。

1回の市長選や市議選には数千万円の公費が投じられるため、政治的混乱による「不必要なコスト」の発生は、行政経営の失敗として厳しく指弾された 。

これを受け、大城市政では「費用を抑えるが効果を最大化する」ことを単なるスローガンではなく、具体的かつ数値化可能な戦略として位置づけるべきである。

効率化のエンジンとしての「行政改革大綱」
第4次南城市行政改革大綱に基づき、市は歳入の確保と行政運営の効率化に向けた「堅実で持続可能な行財政運営」を推進している 。

この大綱が目指すのは、以下の3点に集約される。
 * 事務の省力化: 電子決裁の導入等による内部事務のスピードアップと、人的リソースの再配置 。
 * 生産性の向上: 職員一人ひとりが「市民への付加価値」に直結しない業務から解放されるためのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の実施 。
 * デジタル技術の積極活用: 情報技術の導入を単なる「紙の置き換え」に留めず、プロセス全体の最適化に繋げること 。

このような「コストを抑える」アプローチは、単なる支出削減(カット)ではなく、将来に向けた「投資の余力」を生み出すための「最適化(オプティマイゼーション)」であると解釈されるべきである。

第3章:DXによる事務改善とプロセスの再構築
南城市のデジタルトランスフォーメーション(DX)施策は、「効果の最大化」を図る重要な策である。

南城市DX推進計画は、単なるツールの導入ではなく、利用者視点での改革を目的としている 。

行政業務DXとBPRの徹底
南城市のDX推進において特筆すべきは、既存の業務フローを根本から見直す「行政BPR」の徹底である 。

デジタル化の前にプロセスを整理しなければ、非効率な業務をデジタルで複製するだけに終わるからである。

| DX推進における具体的な事務改善項目 | 期待される効果とKPI |
|---|---|
| AI・RPAの導入 | 定型業務の自動化により、職員の年間作業時間を大幅削減。AI-OCRによる手書き書類の自動読み取りを推進。 |
| ペーパーレス化の推進 | 2027年度までに紙の使用量を20%削減(現状約355万枚から約284万枚へ)。物理的保管コストと印紙代、郵送費の削減。 |
| 電子決裁・デジタル文書管理 | 意思決定の迅速化。庁内における「書類の持ち回り」時間をゼロ化。 |
| 行政手続きのオンライン化 | 市民の来庁負担を軽減し、24時間365日の申請受付を可能にする。 |

これらの取り組みは、単に「便利になる」だけでなく、行政運営にかかる変動費を抑制し、固定費化している人件費の「価値」を最大化することを目的としている。

例えば、RPAの導入により事務作業から解放された職員を、より複雑な「市民相談」や「政策立案」にシフトさせることは、同じ人件費でより高い行政サービスを提供する(=効果を最大化する)ことに他ならない 。

利用者目線の市民サービス改革
DXの恩恵は、職員の事務改善だけでなく、直接的に市民の利便性向上へと波及する。

南城市では「書かせない窓口」や「待たせない窓口」の実現に向け、税務課の申告予約システムなどのオンライン化を進めている 。

また、キャッシュレス決済の導入は、公金管理の正確性を高めるだけでなく、会計事務の効率化にも寄与している。

特に、都城市の事例(都城方式)を参考にしつつ、マイナンバーカードを「デジタル社会のインフラ」として活用する姿勢は、南城市においても重要な指針となっている 。

デジタルデバイド(情報格差)への対策を講じながらも、デジタルを「標準」とすることで、行政全体のシステム運用コストを低減させる戦略が取られている。

第4章:施策評価(PDCA)の公表と説明責任の強化
「しがらみ打破」と「市政刷新」を実効性のあるものにするためには、行政が行った施策がどのような結果をもたらしたのかを市民に公開し、客観的な評価を受ける仕組みが不可欠である。

南城市は、このPDCAサイクルの公表を戦略的に活用している。

外部検証委員会による透明性の担保
南城市創生戦略などにおいて、市は毎年度、外部有識者等が参画する「外部検証委員会」による効果検証を実施している 。

検証結果は速やかに市ホームページにて公表される。

このプロセスの意義は以下の点にある。
 * 客観性の確保: 行政自画自賛の評価ではなく、外部の目による厳しいチェックを受けることで、施策の有効性を担保する。
 * EBPM(証拠に基づく政策立案)の実践: 勘や経験に頼るのではなく、設定した重要業績評価指標(KPI)の達成状況という客観的データに基づいて、次年度の予算配分や事業継続の是非を判断する 。

KPIの設定と進捗管理の具体例
施策評価の具体例として、沖縄県全体で実施されているPDCAの結果が参考になる。

県では、主要指標の達成状況を「前進」「横ばい」「後退」に分類し、達成率を詳細に公表している 。

南城市においても、第2次総合計画の後期基本計画において、施策ごとにKPIが設定されている 。

例えば、高齢者の健康維持や、赤土流出防止といった環境指標において、目標値と実績値の乖離を分析し、目標達成に向けた「次なる一手」を明確にする作業が行われている 。

このように、失敗や遅れも含めて「公表」することは、特定の利害関係によって不透明な事業が継続されることを防ぐ「しがらみ打破」の強力なツールとして機能する。

第5章:「アップサイクル」思想の具現化と地域資源の再価値化
本レポートの核心的な視点は、行政刷新と効率化の「副次効果」としての「アップサイクル」思想の具現化である。

アップサイクルとは、単なる再利用(リサイクル)ではなく、元の素材や状況よりも高い価値を与える「創造的再利用」を指す。

南城市はこの思想を、物的資源のみならず、歴史・文化的資源、さらには「負の遺産」の処理にまで適用しようとしている。

廃校・遊休施設のアップサイクル
南城市内(知念、大里、玉城、佐敷の各地区)に存在する廃校や公共施設の活用は、アップサイクル思想の格好の事例である。

例えば、知念地区などで行われているワークショップでは、地域の戦争体験証言を教材として開発し直すなど、単なる「古い記録」を「次世代への教育資源」へとアップサイクルする取り組みが行われている 。

建物を物理的に維持するコストを抑えつつ、そこに新たな文化的価値を付加して再定義することは、まさに「費用を抑え、効果を最大化する」戦略の具現化である。

観光と環境のアップサイクル:久高島の事例
「神の島」として知られる久高島(字久高)の取り組みは、南城市が目指す持続可能なアップサイクルの象徴である 。
 * 二次交通の見直し: E-Bike(電動アシスト自転車)の貸出を推進することで、排ガスを抑制しつつ、島内の移動を快適な体験へと変容させる。
 * ノンプラスチック化とビーチ清掃: 漂着ゴミを単なる廃棄物として処理するのではなく、清掃活動自体を観光客や住民のエンゲージメント(結びつき)を高めるプログラムへと昇華させる 。
 * 国際エコラベル「グリーンキー」の取得: こうした取り組みを通じて、島の自然的価値を国際的な認証へと繋げ、ブランド価値を「アップサイクル」している 。

市政の混乱を「信頼」へアップサイクルする
大城市政が直面している最大の課題、すなわち「政治的混乱という負の遺産」こそ、アップサイクルされるべき対象である。前市長の不信任や失職という極めてネガティブな事象を、単なる歴史の汚点として終わらせるのではなく、それを糧に「日本一透明性の高い市政」へと進化させることができれば、それは政治における究極のアップサイクルと言える。

「組織団体に頼らない選挙」を通じて得られたリーダーシップは、これまでの「しがらみ」という制約を「市民との直接的な対話」という強みに転換している 。

この信頼回復のプロセス自体が、南城市の新たな都市ブランド(=信頼の田園文化都市)を構築するための重要な素材となっているのである。

第6章:政策検討における因果関係と波及効果の分析
南城市の政策が成功を収めるためには、各施策が独立して存在するのではなく、互いに補完し合う「因果の鎖」を形成する必要がある。

本章では、これまで述べてきた各要素の相互作用を分析する。

しがらみ打破とコスト効率の相関
「しがらみ打破」は、単なる政治的倫理の問題ではなく、経済的合理性の問題である。特定の団体への補助金や、非効率な公共事業の前例踏襲は、行政コストを押し上げる主因となる。
 * しがらみの打破: 既得権益に基づく予算配分を停止する。
 * 資源の解放: 浮いた予算と人的リソースを、DXや子育て支援、農業振興などの成長分野へ再配分する 。
 * 効果の最大化: データに基づいた最適な投資により、市民の満足度を高める。

このプロセスにおいて、PDCAの公表は「監視役」として機能し、再びしがらみが形成されることを防ぐ防波堤となる。

DXとアップサイクルの相関
DXによって事務の効率化が進むと、職員の「時間」という最も貴重な資源が生まれる。

この「余白の時間」こそが、アップサイクル思想を実現するためのクリエイティビティの源泉となる。
 * 定型業務のデジタル化: 事務ミスの低減とスピード向上 。
 * 創造的業務へのシフト: 地域資源(廃校や歴史文化)をどう「アップサイクル」するかを考える企画業務に、より多くの人材を投入できる。

このように、効率化(守り)と価値創造(攻め)は、DXという基盤を共有することで両立が可能となる。

第7章:結論と今後の展望:南城市モデルの構築に向けて
南城市における市政刷新の試みは、地方自治体が直面する「政治の停滞」と「行政の硬直化」という二つの病理に対する、大胆な外科手術である。

2025年の混乱を経て誕生した新市政は、市民の厳しい監視の下で、「最小のコストで最大の幸福」を生み出すための新たな統治モデルを構築しようとしている。

本報告書の分析を通じて、以下の3つの提言を導き出すことができる。
 * 「しがらみ打破」の制度化: リーダーの個人的な資質に頼るのではなく、DXによる透明性の確保や、PDCAの厳格な公表を通じて、「しがらみ」が入り込めないシステムを構築し続けること。
 * 「アップサイクル」指標の導入: 単なる経済効率だけでなく、地域の負の資源(廃校、廃棄物、負の歴史)をいかに価値ある資産に転換できたかを測る独自の指標を検討すること。
 * 対話型ガバナンスの強化: 「組織団体に頼らない」ことは、孤立を意味するのではなく、個々の市民とのより深い対話を意味する。デジタル技術を活用し、多様な市民の声が政策検討にリアルタイムで反映される仕組みを構築すること。

南城市が掲げる戦略は、コストを抑えるという「制約」を、知恵と技術で「価値」に変える挑戦である。

この挑戦が結実したとき、南城市は「アップサイクル」という新たな思想を自治体経営の中心に据えた、日本で唯一無二の「循環型・刷新都市」として、その名を刻むことになるだろう。

政治的動乱を乗り越え、正しい道理が通る市政を追求する姿勢こそが、次世代の市民に引き継ぐべき最も尊い「アップサイクルされた価値」なのである。

データ補足:南城市の行政・財政・選挙指標の概況 
| 指標項目 | 数値・内容 |
|---|---|
| 総人口(2015年) | 42,016人(人口増減率 +5.68%) |
| 平均年齢(2015年) | 44.13歳 |
| 歳入規模(2019年) | 257億9,979万円 |
| 歳出規模(2019年) | 242億9,626万円 |
| 2025年市長選 投票率 | 54.89%(前回の69.12%から低下、政治不信の反映) |
| 当選者(大城憲之氏)得票数 | 11,690票(対立候補 8,259票) |
| 議会構成(2025年11月〜) | 定数20名中、不信任支持派(刷新派)18名が当選 |

この統計データが示す通り、南城市は人口増加傾向にある一方で、2025年の市長選における投票率の低下は、市民の政治に対する複雑な感情(あるいは「もう争いは終わらせてほしい」という渇望)を示唆している。

新市政は、この54.89%という数字の中に含まれる「期待と諦念」の両方を汲み取り、実効性のある政策で答えていく責任がある。

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