南城市における共感型財源確保とデジタル地域通貨を通じた循環型経済圏の構築戦略
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持続可能な地域社会への転換第1章:南城市を取り巻く現代的課題と政策的転換の必要性
沖縄県南城市は、世界文化遺産である「斎場御嶽」や「神の島」と呼ばれる久高島を擁し、豊かな精神文化と自然環境が融合する稀有な地域である。
しかし、現代の地方自治体が直面する構造的な課題、すなわち人口減少、少子高齢化、そしてそれに伴う財政基盤の脆弱化は、この美しい街にも静かに、しかし確実に押し寄せている。
南城市の財政状況を精査すると、令和5年度における経常収支比率は96.2%に達しており、前年度の94.8%から1.4ポイント上昇している 。
経常収支比率は、人件費や扶助費といった義務的経費が、地方税などの使途が特定されない一般財源に対して占める割合を示すものであり、この数値の高止まりは財政の硬直化が極めて深刻なレベルにあることを示唆している。
実質公債費比率も7.4%と微増傾向にあり、将来的な負担増を見据えた投資的経費の管理と、自主財源の拡充が喫緊の課題となっている 。
南城市の経済構造における最大のアキレス腱は、豊かな観光資源と農業基盤を有しながらも、その経済波及効果が域内に十分に留まっていない「漏れ」の構造にある。
地域経済分析システム(RESAS)を用いた分析によれば、南城市は年間約200万人の観光客を惹きつける「おきなわワールド」などの強力な集客拠点を有しているが、その多くが近隣の那覇市などに宿泊し、南城市内では短時間の滞在に留まる「通過型観光」が主体となっている 。
このため、観光客による消費が市内の飲食店や宿泊施設、さらには地域の基幹産業である農業や食料品製造業へと十分に波及していない。
RESASの産業構造分析でも、飲食店や食料品製造業の域内仕入れがわずかであり、地産地消や産業間連携が十分に機能していない実態が浮き彫りになっている 。
このような背景から、南城市は「デジタル活用で人にやさしい住みよいまち」という基本理念を掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を単なる効率化の手段ではなく、地域経済の構造改革と財政の健全化を同時に達成するためのエンジンとして位置づけている 。
本報告書では、ふるさと納税の使途の「見える化」による共感の喚起、南城市限定デジタル地域通貨の導入による域内経済循環の最大化、そしてそれらを支える「アップサイクル」思想の具現化という、三位一体の戦略について詳述する。
第2章:財政基盤の強化とふるさと納税の「共感型」モデルへの進化
地方自治体にとってのふるさと納税は、かつての「返礼品競争」から、自治体のビジョンや具体的なプロジェクトに対する「投資」や「応援」へとその性質を変容させている。
南城市におけるふるさと納税受入額は、令和2年度の約9,700万円から令和3年度には約2億3,883万円へと146%という驚異的な伸びを見せている 。
この成長を一時的なものに終わらせず、持続可能な自主財源として定着させるためには、寄附者の心理的充足感を高める「共感」の醸成が不可欠である。
2.1 使途の「見える化」と透明性の確保
全国の指定団体のうち97.7%が寄附金の使途を選択できる仕組みを導入している一方で、実際に事業の進捗や成果を積極的に報告している団体は48.9%に留まっている 。
南城市が他自治体との差別化を図るためには、この「報告」の質をデジタル技術によって劇的に高める必要がある。
使途メニューとして掲げられている「ひとが育つ」「地域が元気になる」といった抽象的な区分を、より具体的でストーリー性のあるプロジェクトへと細分化し、その進捗をリアルタイムで可視化するダッシュボードの構築が求められる 。
例えば、千葉県流山市では、行政サービスに対する住民の「重視度」と「満足度」のギャップをダッシュボードで可視化し、それに基づいた政策運営を行っている 。
南城市においても、寄附金が具体的にどの施設の改修に使われたのか、何人の子どもの奨学金に充てられたのかといったデータを、写真や動画とともに公開することで、寄附者は「自分の税金が南城市の未来を確実に変えている」という実感を得ることができる。
これは単なる説明責任の履行ではなく、寄附者を「関係人口」へと昇華させるための極めて有効なコミュニケーション戦略である。
2.2 ガバメントクラウドファンディング(GCF)による課題解決の加速
返礼品という「モノ」ではなく、プロジェクトの内容という「コト」への共感で資金を募るガバメントクラウドファンディング(GCF)は、南城市のような独自の文化的価値を持つ自治体に最適な手法である。
佐賀県では「どんな境遇の子どもたちも見捨てない! 佐賀県発の子ども救済システム」といった具体的な社会課題解決をテーマに掲げ、多額の寄附を集めることに成功している 。
また、栃木県矢板市ではフットボールセンター建設のために約892万円の寄附を集めるなど、特定の目的を持った施設整備への活用も広がっている 。
南城市においても、聖地「斎場御嶽」の保全や、後述するアップサイクル製品の開発支援、AIオンデマンド交通「おでかけなんじぃ」の機能拡張など、市民の生活質(QoL)を直接的に高めるプロジェクトをGCFとして立ち上げるべきである。
これにより、通常の予算サイクルでは対応しにくい実験的な事業に対しても、柔軟に特定財源を確保することが可能となる 。
第3章:デジタル地域通貨「なんじょうコイン(仮称)」による経済循環の再設計
南城市の政策検討における中核をなすのが、南城市限定のデジタル地域通貨の導入である。
これは単なる決済手段のデジタル化ではなく、市外への富の流出を防ぎ、域内での経済循環を強制的に、かつ心地よく加速させるためのツールである。
3.1 SaaS型プラットフォームによる低コスト・高効率な導入戦略
デジタル地域通貨の導入にあたっては、システム開発に多額の費用を投じるのではなく、既存のSaaS(Software as a Service)型プラットフォームを活用することで、導入コストを抑えつつ効果を最大化する戦略をとるべきである。
北海道苫前町では約1,050万円、北海道豊頃町では約423万円という、自治体予算として極めて合理的な範囲でデジタルポイント・通貨システムを構築している 。
現在、南城市では旅先でふるさと納税ができる「なんじょうe街ギフト」を導入しており、寄附額の3割分を飲食店や宿泊施設で利用できる二次元コードとして即座に発行している 。
この仕組みを拡張し、市民の日常生活やボランティア活動、健康増進活動に対してもポイントを付与する包括的な「デジタル地域通貨プラットフォーム」へと進化させることが肝要である。
| 導入事例 | 自治体名 | 予算規模 | 特徴・目的 |
|---|---|---|---|
| デジタル地域通貨 | 北海道苫前町 | 10,502千円 | 購買行動促進、キャッシュレス手数料の域外流出防止、データ分析によるEBPM推進 |
| 電子地域通貨 | 北海道当麻町 | 44,152千円 | マイナンバーカード連携、対象住民への迅速なポイント付与による利便性向上 |
| デジタルポイント | 北海道豊頃町 | 4,230千円 | 磁気カードからデジタルへの移行、行動変容による地域課題解決 |
| 都市OS連携ポイント | 栃木県佐野市 | 28,250千円 | スマートシティ基盤(都市OS)とのデータ連携による地域産業の可視化 |
| 養老Pay | 岐阜県養老町 | ― | プレミアム商品券のデジタル化、高齢者の見守り機能の追加 |
3.2 データ分析(EBPM)への活用と産業の活性化
デジタル地域通貨の真の価値は、蓄積される決済データにある。
南城市のDX推進計画では、令和9年度までに「EBPM(証拠に基づく政策立案)を取り入れた施策数」を5種以上にするという目標を掲げている 。
決済データを分析することで、観光客がどの観光スポットを訪れた後にどの飲食店を利用したのか、あるいは市民がどのような時間帯に地域の直売所を利用しているのかといった「生きた経済動態」を把握できる。
例えば、宮崎県の事例では、特産品の購入理由が「日常のちょっとした贅沢」であることをデータから突き止め、ターゲットに合わせた販促を行っている 。
南城市においても、RESASデータで示された「飲食店や食料品製造業の労働生産性の低さ」という課題に対し、デジタル通貨の利用データを活用したピンポイントな集客支援や、在庫管理の最適化、さらには新商品開発へのフィードバックを行うことで、地域産業の底上げを図ることが可能となる 。
第4章:「アップサイクル」思想の具現化と資源循環モデル
本戦略の最も独自性のある点は、デジタル地域通貨の副次効果として「アップサイクル」思想を地域全体で具現化することにある。アップサイクルとは、廃棄物に新たな価値を与えて別の製品に生まれ変わらせることであり、これは南城市の持続可能な発展を象徴する施策となり得る。
4.1 資源回収と地域通貨ポイントの連動メカニズム
高知県香美市で実施された、TOPPANの「地域Pay®」を活用した「kamica(カミカ)」の循環システムは、南城市が目指すべきモデルの先駆例である。
住民がリサイクルステーションにペットボトルやアルミ缶を投函すると、自動的に「kamica」にポイントが付与される。
特筆すべきは、このポイントの原資が、回収した資源ごみの売却益によって賄われている点である 。
南城市においても、この「補助金に頼らない自律的な循環モデル」を導入すべきである。
* 行動変容の喚起: 資源ごみを「捨てるもの」から、地域通貨を「生み出す資源」へと認識を変えさせる。
* 域内消費の還流: 回収で得たポイントは市内の加盟店でのみ利用可能なため、清掃活動が直接的に地域経済を支えるエネルギーとなる。
* コスト削減: 行政が負担していたごみ処理費用を低減し、その余力をさらなる福祉や教育に再投資できる 。
4.2 南城市発のアップサイクル・ブランドの創出
南城市には、アップサイクルの素材となる未利用資源が豊富に存在する。既に沖縄県内では、廃車となった車の窓ガラスを粉砕し、琉球ガラス職人の技術によって「mado(まど)」という新しい食器へと再生させるプロジェクトが成功を収めている 。
南城市はこのモデルをさらに広げ、地域の基幹産業である農業や製造業と結びつけるべきである。
* 農業副産物の活用: 南城市の主要産物であるサトウキビのバガス(搾りかす)や、規格外で廃棄されるマンゴーやピーマンを原料とした、新たな加工食品や染料、工芸品の開発。
* ストーリー性の付与: これらの製品は単なるリサイクル品ではなく、「聖地・南城市の資源を再生させたもの」という高い精神的価値を持つ。これを「なんじょうコイン」でのみ購入可能な限定品としたり、ふるさと納税の返礼品として全国に発信したりすることで、南城市のブランド価値を飛躍的に高めることができる 。
第5章:DX推進計画との整合性と実行ロードマップ
南城市は既に「南城市DX推進計画」を策定しており、デジタル技術を「人にやさしい住みよいまち」の実現のための手段として明確に位置づけている 。
本報告書で提案する戦略は、このDX推進計画における「市民サービスDX」「行政業務DX」「産業DX」の各項目を具体化するものである。
5.1 主要成果指標(KPI)の設定と進捗管理
計画の実効性を担保するため、以下のKPIを設定し、段階的に進捗を確認する必要がある。
| 指標(KPI) | 現状(令和4年度) | 最終目標(令和9年度) | 本戦略による寄与 |
|---|---|---|---|
| 市民満足度 | ― | 50.0% | デジタル通貨による利便性向上と地域貢献の可視化 |
| マイナンバーカード普及率 | 48.6% | 95.0% | カード連携によるポイント付与等のインセンティブ |
| 電子申請・電子予約件数 | 25件 | 1000件 | 行政手続のデジタル化と通貨機能の統合 |
| 公式LINE友だち登録者数 | 4,000件 | 20,000件 | 通貨利用通知や使途報告の配信チャネルとしての活用 |
| EBPMによる政策推進数 | ― | 5種 | デジタル通貨決済データの分析に基づく産業支援 |
5.2 段階的実装のステップ
広範囲に及ぶデジタルトランスフォーメーションを一足飛びに進めることは困難であり、将来の到達イメージを見据えた段階的な取り組みが必要である 。
* Step 1: 全体方針の決定と基盤構築: 低コストなSaaS型プラットフォームを選定し、既存の「なんじょうe街ギフト」との統合準備を進める。
* Step 2: 観光・ふるさと納税からの先行導入: 観光客向けのデジタル通貨利用を促進し、使途報告ダッシュボードを公開して「共感による納税」の仕組みを確立する。
* Step 3: 市民生活への展開とアップサイクル連動: 資源回収ポイントシステムを導入し、市民の日常生活にデジタル通貨を浸透させる。
* Step 4: データ連携と持続可能な循環社会の完成: 蓄積されたビッグデータを活用して農業や観光業の労働生産性を向上させ、補助金に依存しない自律的な経済圏を完成させる。
結論:南城市が拓く地方創生の新たな地平
南城市における政策検討の核心は、デジタル技術を「無機質な効率化」のために使うのではなく、「有機的なつながりと共感」を再構築するために使うという点にある。
ふるさと納税の使途を可視化し、寄附者の想いを地域の課題解決に直結させる。
デジタル地域通貨という血液を流し、外から入ってきた資金を域内で何度も循環させる。
そして、捨てられるはずの資源に新たな命を吹き込むアップサイクルの思想を社会実装する。
これらの施策が統合されたとき、南城市は単なる観光地ではなく、寄附者にとっては「自分の意志が反映される誇らしい投資先」となり、市民にとっては「自分の行動が地域を良くしていることを実感できる誇らしい居住地」となる。
財政指標の改善という数字上の成果を超えて、人々の「ウェルビーイング(幸福度)」がデジタル活用によって向上する社会。
それこそが、南城市が目指す「デジタル活用で人にやさしい住みよいまち」の真の姿である。
本戦略の遂行には、行政、市民、市内事業者、そして全国の寄附者が一つのエコシステムとして機能することが不可欠である。
南城市が沖縄から発信するこの循環型経済モデルは、同じ課題を抱える全国の地方自治体にとっての希望の光となるに違いない。
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