歴史遺産とスポーツの統合による共感型経済圏の創出と持続可能な財政戦略

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南城市における地域経営の革新

序論:地方自治体における「共感型財政」へのパラダイムシフト
日本の地方自治体が直面している人口減少と財源不足という構造的課題に対し、沖縄県南城市は「歴史・文化」と「スポーツ」を核とした独自の地域経営モデルを提唱している。

従来の「ふるさと納税」は、返礼品の市場価値に依存した「取引型」の性格が強かったが、南城市が目指すのは、寄附金の使途を徹底的に透明化し、寄附者が地域の課題解決に直接関与しているという実感を伴う「投資・共感型」への転換である。

本報告書では、琉球王国開びゃくの聖地を巡る「御新下り(おあらおり)や東御廻い(あがりうまーい)」の伝統行事、市民に親しまれる「尚巴志ハーフマラソン」、そして環境負荷を価値に変換する「アップサイクル」思想の三者を統合し、最小のコストで最大の関係人口を創出するための戦略的ロードマップを提示する。

1. 財源確保の高度化:使途の「見える化」と共感による納税喚起
1.1 ふるさと納税の現状分析と「共感」の経済学的意義
ふるさと納税制度において、寄附額を左右する要因の55.8%は「返礼品の魅力や多様性」であるが、一方でプロモーション(28.7%)や使途の提示といったソフト面の重要性も増している 。

南城市では、既に「5つの事業」から寄附金の使い道を指定できる体制を整えており、子どもたちの通学を支えるコミュニティバス「Nバス」の運行経費や、小学校の校舎改築、台風被害の災害支援など、市民生活に直結する分野へ資金を投下している 。

しかし、持続的な財政基盤を構築するためには、単なる「報告」を超えた「ストーリーの共有」が必要である。

寄附者が自分の投じた資金がどのように地域を変えたかを視覚的・体験的に理解できる仕組み、すなわち「使途の見える化」こそが、リピート寄附や「ファン」の形成に寄与する。

1.2 先進事例に見る「見える化」の効果とファンコミュニティ
岡山県倉敷市では、民間企業と連携してファンドを組成し、竹林問題や伝統農作物の継承に寄附金を充てる「コネクトローカルプロジェクト」を展開している 。

また、埼玉県深谷市のように「障がいのある子どもたち」の夢を支援するプロジェクトを具体的に提示することで、特定の社会課題に対する強い共感を呼び起こし、クラウドファンディングの成功を収めている事例もある 。

南城市においても、使途をより具体化・個別化し、例えば「御新下りの衣装修復プロジェクト」や「マラソン大会の環境負荷ゼロ化プロジェクト」といった形でパッケージ化することが有効である。

これにより、寄附者は「南城市という自治体」を応援するだけでなく、「そのプロジェクトのパトロン(後援者)」としてのアイデンティティを持つことになる。

| 寄附金の使途分類 | 具体的な活用事例 | 期待される心理的・経済的効果 | 参照ソース |
|---|---|---|---|
| 公共交通支援 | Nバス運行経費への充当 | 市民生活の利便性維持、地域継続性の確保 | |
| 教育環境整備 | 小学校校舎改築工事 | 未来の担い手への投資、子育て世代の安心感 | |
| 災害復旧支援 | 台風被害支援、インフラ復旧 | 緊急時の互助意識、安全な観光基盤の再構築 | |
| 伝統文化継承 | 南城市まつりの安定開催、伝統芸能PR | 歴史的価値の保存、交流人口の拡大 | |

1.3 SNSとデジタルプロモーションによるエンゲージメント強化
「見える化」を促進するためには、寄附者との継続的な接点が不可欠である。

ある自治体の事例では、SNS広告によるプロモーションを実施した結果、1年間で申込み件数が1.1万件、寄附額が1.8億円増加したというデータがある 。

南城市においても、寄附受領証明書を送付する際に、児童生徒が描いた地域の魅力(絵手紙)を同梱する富士吉田市の事例 を参考に、市民との「温度感のある交流」をデジタル・アナログの両面で演出することが望ましい。

2. 関係人口創出の核としての「御新下り」:参加型返礼品の設計
2.1 「御新下り(あがりうまーい)」の文化的価値と関係人口
南城市が誇る「御新下り」や​「東御廻い」は、琉球王国の開祖である尚巴志にも繋がる、東四間切(あがりよまじり)の聖地を巡る巡礼行事である。

「御新下り」における現状の参加資格は、南城市民や市在勤者に限定されており、心身の健康や特定の容姿(女性の髪の長さ等)といった厳格な要件が課されている 。

この「閉鎖性」こそが、逆に「参加することの希少価値」を高める要因となり得る。

関係人口の創出において、単なる観光(一見客)から、地域の核心部分に関わる「当事者(関係住民)」へのステップアップが重要である。

伝統行事への参加権をふるさと納税の返礼品とする試みは、地域の文化を「消費」するのではなく「共に守る」という意識を醸成する。

2.2 京都・時代祭に学ぶ「参加権」の運営と留意点
京都市の「時代祭」では、10万円以上の寄附により、平安時代や江戸時代の行列に参加できる出走権(配役)を返礼品として提供している 。

この際の運営上のポイントは以下の通りである。
 * クレジットカード決済限定: 事務手続きの簡素化と確実な入金確認 。
 * 先着順とキャンセル不可: 行事の性格上、欠員が出ることのリスクを最小限に抑える 。
 * 追加費用の負担: 寄附金とは別に、保険料や事務手数料を参加者が負担する場合もあり、行事の安定運営を担保する 。

南城市においても、「御新下り」の伝統的な衣装(アップサイクル素材を用いたもの)を着用し、聖地を巡る「特別参列枠」を設けることで、高額寄附層や歴史愛好家をターゲットとした関係人口の深化が可能となる。

2.3 伝統行事と連動した体験型パッケージの構造
| 返礼品メニュー案 | 内容の詳細 | 寄附金額(想定) | 期待される波及効果 |
|---|---|---|---|
| 御新下り・本祭参列権 | 伝統衣装の着用、儀式への参加、公式記録への記載 | 200,000円以上 | 地域の伝統継承者としての自負心醸成 |
| 聖地巡礼ガイドツアー | 職人・研究者による解説付きのプライベートツアー | 50,000円以上 | 知的好奇心の充足、リピーター化 |
| 伝統衣装・着付け体験 | 南城市内の工房での着付け、写真撮影 | 30,000円以上 | 伝統工芸職人への直接的な収益還元 |

3. 尚巴志ハーフマラソンとの抱き合わせ戦略:コスト抑制と効果最大化
3.1 イベント統合による財務構造の改善
「尚巴志ハーフマラソン」は、参加料収入だけで約6,000万円(一般8,000名、ふるさと納税枠500名等)を見込む南城市最大のスポーツイベントであるが、警備費やシャトルバス運行費、事務局運営費などで約7,720万円の予算を要する 。

議会においても、大会による経済波及効果が「数億円規模」とされる一方で、物価高騰に伴う市補助金の投入(約1,000万〜1,500万円)の是非が議論されている 。

「御新下り」をマラソン大会と同じ時期、あるいは関連イベントとして「抱き合わせ」開催することにより、以下のコスト削減と相乗効果が期待できる。
 * 警備・交通規制の効率化: マラソンコースと御新下りの巡礼路は地理的に重複しており、警備員の配置や規制看板の設置を一括して発注することで、単独開催よりも費用を抑えることが可能である 。
 * 広報・PRの共通化: 「南城市カルチャー&スポーツウィーク」として一体的に宣伝を行うことで、新聞・テレビ広告(約450万円)の費用対効果を最大化する 。
 * ふるさと納税枠の戦略的拡大: マラソン出走権をふるさと納税の返礼品とする仕組み(500名枠)を、伝統行事参加権とセットにすることで、寄附単価の向上を狙う 。

3.2 「素通り型」から「滞在型」への転換
議会で指摘されている「ランナーが走ってすぐに帰ってしまう」という課題に対し、マラソン翌日に「御新下り」の体験イベントを設定することで、市内での宿泊(ユインチホテル南城等)を促進する 。

また、市内の飲食店や観光施設(斎場御嶽、NEOSアウトドアパーク等)で利用可能な「ふるさと納税デジタルクーポン」を配布することで、直接的な経済還流を生む仕組みを構築する 。

3.3 尚巴志ハーフマラソン予算構成と効率化の余地(令和5年度大会例)

| 歳出項目 | 金額(円) | 主な内容 | 効率化の可能性 | 参照ソース |
|---|---|---|---|---|
| 事務局費 | 20,440,000 | 手数料、委託料(警備、バス等) | システム共通化、一括発注 | |
| 競技運営費 | 15,480,000 | コース設営、交通規制看板等 | 設置期間の延長、資材再利用 | |
| 参加賞・表彰費 | 16,350,000 | Tシャツ、完走メダル等 | アップサイクル製品への切替 | |
| 会場設営・式典費 | 12,250,000 | ステージ、看板、音響等 | イベント間での会場共有 | |
| 安全対策・救護費 | 5,500,000 | 医師・看護師謝礼、保険料等 | 医療・救護体制の共同運用 | |

4. 副次効果としての「アップサイクル」思想の具現化
4.1 廃棄物を価値に変換する地域ブランド戦略
アップサイクルとは、廃棄予定の素材に新たな価値を加え、元の製品よりも優れたものに作り替える取り組みである 。

南城市がこの思想を政策の副次効果として掲げる背景には、環境負荷の低減と、伝統工芸の新たな出口戦略という二つの側面がある。

具体的には、以下のような「アップサイクル返礼品」の開発が想定される。
 * マラソン大会廃棄物の転換: 大会を彩ったフラッグや横断幕を、トートバッグやポーチに再生する(東京マラソンの事例) 。大会運営スタッフが着用したTシャツを増刷し通年的に販売する。また、廃棄予定の車両座席シート(Nバス等)を、伝統的な職人技で座布団やバッグへ加工する(東京メトロの事例) 。
 * さとうきびバガスの利活用: 沖縄県産さとうきびの搾りかす「バガス」を糸に織り直し、かりゆしウェアとして製品化する事例は、南城市の基幹産業と密接に関連している 。

4.2 伝統工芸職人とアップサイクルの融合
南城市には、琉球紅型などの優れた伝統工芸が存在する 。

これらの制作過程で発生する端切れや、劣化により使用できなくなった古い衣装を、現代のライフスタイルに合わせた製品(風呂敷、ハンカチ、バッグ等)へとアップサイクルすることは、技術の継承と環境意識の向上を同時に達成する 。

このような「ストーリーのある製品」は、ふるさと納税において単なる「モノ」以上の価値を持ち、エシカルな消費を重視する都市部の寄附者から強い支持を得ることが期待される 。

4.3 アップサイクル製品の開発マトリクス

| 供給源(廃棄素材) | 加工主体(職人・企業) | 最終製品(返礼品) | 期待されるストーリー | 参照ソース |
|---|---|---|---|---|
| マラソン・フラッグ | 市内バッグ制作工房 | トートバッグ、サコッシュ | 「完走の記憶」を身に纏う | |
| さとうきびバガス | BAGASSE UPCYCLE社 | かりゆしウェア | 「大地の恵み」の循環 | |
| 紅型・織物端切れ | 伝統工芸職人 | アップサイクル小物 | 「伝統の破片」に宿る美 | |
| 公共交通シート | 熟練の布団職人 | アップサイクル長座布団 | 「市民の足」から「安らぎ」へ | |

5. デジタル住民票とWeb3技術による「終わらない関係性」
5.1 NFTを基盤とした関係人口のコミュニティ化
関係人口を一時的なイベント参加で終わらせないためには、デジタル技術を活用した継続的なエンゲージメントが必要である。

山形県西川町が発行した「デジタル住民票NFT」や、新潟県山古志村の「錦鯉NFT」のように、NFT(非代替性トークン)を「地域との繋がりを証明するパスポート」として機能させる 。

南城市におけるNFT活用のメリットは以下の通りである。
 * 在庫不要のデジタル特産品: 物理的な配送コストを抑えつつ、寄附額を伸ばすことが可能 。
 * 限定体験へのアクセス権: NFT保有者限定の「御新下り裏側見学ツアー」や、ウイスキーの優先購入権のようなインセンティブの付与 。
 * DAO(自律分散型組織)的コミュニティ: デジタル住民同士が交流し、南城市の新たな政策やイベント企画にアイデアを出す場を創出する 。

5.2 リアルとデジタルを繋ぐO2O(Online to Offline)施策
鳥取県鳥取市や京都府宮津市では、NFTを保有して現地を訪れると、特別な撮影特典や「かわらけ投げ体験」ができるといった、現地来訪を促す仕組み(O2O)を導入している 。

南城市においても、マラソン会場や聖地の各所にQRコードを設置し、NFTの絵柄が進化するなどの仕掛けを施すことで、回遊性を向上させることが可能である 。

6. 結論:持続可能な地域経済モデルの構築に向けて
本報告書で提示した戦略は、南城市が保有する「尚巴志」という強力な歴史的ブランドを軸に、財政、文化、環境、デジタルの各施策を統合するものである。
 * 共感型財政: 「Nバス」運行などの具体的な使途を提示し、寄附者の満足度を高めることで、安定的な税外収入を確保する。
 * 参加型伝統: 「御新下り」への参加権を返礼品化し、単なる観光客を「文化の守り手」という関係人口へと深化させる。
 * 効率的運営: マラソン大会と伝統行事を抱き合わせることで、警備・広報コストを削減し、費用対効果を最大化する。
 * 循環型ブランド: アップサイクル製品の開発を通じて、南城市を「環境と伝統が調和する先進都市」として位置づける。

これらの施策を一体的に実行することにより、南城市は「稼ぐ力」を持つ自治体へと変貌を遂げ、市民の生活質(QOL)の向上と、琉球文化の永続的な継承を両立させることができる。

本戦略の具現化こそが、人口減少社会における地方自治体の新たな生存戦略となる。

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