南城市における地域統治機構の再定義

(イメージ画像)
区長権限強化と人的資本のアップサイクルによる持続可能な自治モデルの構築

第1章 序論:南城市が直面する構造的転換点と新たな自治の地平
沖縄県南城市は、2006年の4町村合併以来、豊かな自然、歴史的遺産、そして独自の精神文化を基盤に発展を遂げてきた。

しかし、現在の南城市を取り巻く環境は、人口動態の変容、産業構造の停滞、そして地域コミュニティの機能低下という、三畳紀的な課題の交差点に位置している。

合併当時の人口40,759人から2017年の43,200人余への増加、さらに2025年には45,000人のピークに達すると予測されているものの、その内部構造は極めて脆弱である 。

特に知念半島側の知念、佐敷東部、玉城東部における少子高齢化と生産年齢人口の減少は深刻であり、市全体での人口バランスの悪化が顕著となっている 。

このような状況下で、南城市が掲げる「南城ちゃーGANJU CITY 総合戦略」の成否は、地域自治の最小単位である「区」の機能再生にかかっている。

従来のボランティア精神と慣習に依拠した区長(自治会長)制度は、住民ニーズの多様化と、担い手となる引退世代の減少により、限界を迎えている。

本報告書では、南城市における政策検討の核心として、区長の権限・地位の抜本的強化、業務の兼業化推進、そして民間事業経験を持つ人材のフル活用を提案する。この戦略の特筆すべき点は、人材育成費用を抑制しつつ効果を最大化する「コスト効率型イノベーション」であり、その深層には人的資源の価値を再定義する「アップサイクル」思想が流れている。

第2章 南城市の地域課題:多層的分析と危機の本質
2.1 人口動態の歪みと地域間格差
南城市の人口推移は、一見すると堅調な増加を示しているが、その実態は地域間の極端な偏在によって構成されている。大里地域など、都市計画の見直しと土地利用規制の緩和によって約200棟の集合住宅が建設されたエリアでは、約3,000人の人口流入が見られた 。

しかし、この急速な流入は、既存の地域コミュニティとの摩擦や、学校施設の収容能力限界といった新たな課題を生んでいる。

一方で、伝統文化が色濃く残る知念半島側では、生産年齢人口の市外流出が止まらず、地域文化の担い手不足が加速している 。

2040年には高齢化率が3割を超えると予測されており、老年人口は2045年頃に97,901人をピークに減少へと転じる見込みである 。

2050年の将来推計人口は44,876人とされており、長期的な減少局面を目前に控えている 。このような「増加の中の衰退」という複雑な状況が、自治会運営をより困難なものにしている。

2.2 地域コミュニティの機能不全と伝統の継承危機
南城市における最大の課題は、コミュニティおよび伝統行事の継承が危ぶまれていることである 。

かつて7割から8割を誇っていた自治会加入率は、新住民の「行事不参加・未加入」という弊害により低下傾向にある 。つきしろ自治会の事例では、全800区画のうち半分しか活用されておらず、大学生年代がいる世帯はわずか2.5%に過ぎないというデータもあり、世代交代の停滞が浮き彫りとなっている 。

また、南城市には県内11市の中で唯一高等学校が存在しないという教育環境の制約がある 。この事実は、若者が高校進学とともに地域外へと意識を向け、卒業後は那覇市や県外で就職するという「地域との関係希薄化」を構造的に作り出している。地元での就職イメージが低く、基幹産業である農林水産業への担い手不足が慢性化している現状は、地域運営を支える現役世代の不在を意味している 。

2.3 産業構造と就業形態の不整合
南城市の労働人口の半分以上が市外で就労しており、市内に強固な産業基盤が存在しないことが指摘されている 。

2016年度に南城市へ就職した琉球大学卒業生が0人であったという衝撃的な数値は、高度な専門性を持つ人材が地域に還流していない現状を如実に示している 。

就業率は51.81%と全国平均を下回る水準(815市区中575位)にあり、地域住民が日中の大半を地域外で過ごす就業形態は、平日の地域活動を物理的に不可能にしている 。

第3章 区長(自治会長)の現状と制度的限界
3.1 事務委託という「受動的」地位
現在、南城市における区長の業務は、市との「事務委託契約」に基づいている 。令和6年4月の事例では、事務委託契約書の提出が求められ、個人印での押印という厳格な事務手続きが規定されている。

この関係性は、区長を「行政の補助機関」として位置づけており、地域課題を自律的に解決する「リーダー」としての裁量を制限している。

3.2 業務の過重負担と報酬の不均衡
区長業務は多岐にわたり、防犯見回り、配布物の手渡し、行事の企画・運営、住民トラブルの調整など、その負担は「24時間365日」に及ぶことも少なくない。

一方で、その報酬は自治会の自主判断に委ねられており、法律による規定はない 。この負担と対価の不均衡は、現役世代が区長職を敬遠する最大の要因となっている。

また、高齢者に配布物を手渡しするという慣習は、不在時の再訪問を強いるなど、現代のライフスタイルにそぐわない非効率性を生んでいる 。

3.3 組織の硬直化と孤立
多くの自治会において、区長一人が責任を負い、孤独な決断を迫られる体制が続いている。

福岡県那珂川市の事例では、自治会を「住民間のトラブル解決の公的な窓口(ワンクッション)」と定義し直しているが、南城市においても、区長の役割を「調整・相談のハブ」へと転換することが求められている 。

第4章 権限・地位強化の戦略的設計
区長の地位を「行政の末端」から「地域のCEO」へと昇華させるためには、制度的・心理的な両面からのアプローチが必要である。

4.1 「地域包括交付金」による予算編成権の付与
区長の権限強化の核心は、資源の配分権にある。従来の補助金制度は使途が限定されており、柔軟な対応が困難であった。時には、コンサルが企画当初から関わっていないという理由で助成対象から外される事例もある。いわゆる、執行率の向上を名目に、区や自治会の自主・自律を疎外し、コンサルへの資金還流を助長させている。ここに、沖縄のザル経済の一因が垣間見られる。

これの状況を踏まえ、区長および地域運営組織が裁量を持って活用できる「包括交付金」へと移行する。いわゆる沖縄県レベルでいう​「一括交付金」モデルだ。

この手法により、街灯の修繕、小規模な防災訓練、あるいはキッチンカーを招致した交流イベントなど、地域の切実なニーズに即応することが可能となる 。

4.2 行政との対等な協働パートナーシップ
区長を、市の政策立案プロセスにおける「参与」として位置づける。

行政が決定した事項を伝えるだけの伝達者ではなく、地域課題を吸い上げ、市の予算案や事業計画に反映させる「ボトムアップの起点」としての地位を明確にする。

これは、総務省が推進する「地域運営組織(RMO)」の概念をさらに深化させ、南城市独自の統治モデルを構築するものである 。

4.3 チーム型統治への転換
区長一人に負荷を集中させない「チーム王塚台」のような体制を構築する 。自治会、公民館、社会福祉協議会、そして後述する民間人材が連携する「地域マネジメントチーム」を組織し、区長はその意思決定のオーガナイザーとして機能させる。

この分業体制こそが、現役世代がリーダーを引き受けるための前提条件となる。

第5章 区長業務の兼業化推進と現役世代の参画
区長業務を「ボランティア」という呪縛から解き放ち、プロフェッショナルな「職」として再定義する。

5.1 兼業・副業を前提とした制度設計
地方公務員法においても、地域活動への参画を促すための柔軟な制度設計が進んでいる 。

南城市においては、区長職を「有償の公的職務」あるいは「社会貢献型ビジネス」として位置づけ、民間企業の社員が自身のキャリアを継続しながら区長を務めることを可能にする。

長野県富士見町の事例では、翻訳家という自身のスキルを維持しながら「兼業」を条件に地域おこし協力隊に着任し、後に町議会議員として活躍する人材が輩出されている 。

このような、キャリアアップモデルも参考に、地域活動家→地域役員→区長→市会議員→市長、というようなボトムアップ型キャリア形成を支援する。

5.2 地域おこし協力隊とのハイブリッドモデル
地域おこし協力隊制度を活用し、都市部から高度な専門性を持つ人材を「次期区長候補」として招致する。鹿児島県長島町では慶応大学SFCと連携し、協力隊制度を活用して研究員を任用している 。

南城市においても、3年間の任期中に地域住民との信頼関係を構築し、行政手続きや地域経営のノウハウを習得した上で、区長として就任する「出口戦略」を明確にした採用を行う 。

5.3 企業派遣型・副業型の地域活性化起業人
総務省の「地域活性化起業人」制度を活用し、大手企業の社員を南城市の「区長アドバイザー」や「プロジェクトマネージャー」として受け入れる。

令和5年度実績では、観光・インバウンド(36.1%)や広報・魅力発信(15.4%)といった分野で多くの民間人材が活動しており、彼らの経営感覚を自治運営に注入することで、組織の近代化を図る 。

第6章 民間事業経験の地域課題へのフル活用
民間セクターで培われたスキルは、行政や地域コミュニティが抱える「慢性的な非効率」を打破する特効薬となる。

6.1 マネジメントと企画力の転用
民間企業におけるプロジェクトマネジメントの手法を、伝統行事や地域課題解決に適用する。

例えば、秦野市ではイベント時の模擬店運営が役員の負担になっていたため、キッチンカーを導入することで、負担軽減と若い世代の集客を両立させた 。

これは、民間的な「アウトソーシング」と「顧客視点」の導入に他ならない。

| スキル領域 | 地域課題への適用例 | 期待される成果 |
|---|---|---|
| プロジェクト管理 | 伝統行事の工程管理・マニュアル化 | 属人的運営からの脱却、引継ぎの簡素化 |
| マーケティング | 地域特産品(農産物等)の販路開拓 | 域内収益の向上、若手就農者の意欲向上 |
| DX推進 | 回覧板のデジタル化、SNSによる情報共有 | 事務作業の削減、現役世代の参加障壁低下 |
| 組織開発 | サポーター登録制度の構築 | 役員以外の緩やかな協力層の拡大 |
を基に作成。

6.2 行政・民間・住民の「ブリッジ人材」としての役割
民間人材は、行政用語と住民の言葉、そしてビジネスの論理を翻訳する「ブリッジ人材」として機能する。

福島県磐梯町のように、最高デジタル責任者(CDO)を民間から登用することで、行政のデジタル化を加速させ、住民サービスの利便性を高める事例がある 。

南城市の区長がこの役割を担うことで、市が進める企業誘致や創業支援と、地域コミュニティとのミスマッチを防ぐことが可能になる 。

6.3 経済循環の創出(EBPMの視点)
民間出身の区長は、地域を「守る」だけでなく「稼ぐ」組織へと変革させる。地域の資源を活かした観光産業や、特産品のアップサイクル食品開発において、商業マージンや運輸マージンを考慮した経済効果の算出を行うことで、持続可能な地域経営を実現する 。

第7章 人材育成費用の抑制と効果最大化の戦略
「費用を抑えるが効果を最大化する」という戦略は、外部の高額なリソースに依存するのではなく、地域内の潜在的価値を掘り起こすことで達成される。

7.1 ピア・ラーニングと横展開の徹底
先進的な取り組みを行う区長や地域リーダーが講師となり、他の地区へノウハウを移転する「地域別の意見交換会」を組織化する 。外部コンサルタントによる一般的な講義よりも、南城市特有の地縁関係や風習を熟知した者同士の学び合いの方が、実効性が高く、コストも最小限に抑えられる。

7.2 既存リソースの再配置(アセットマネジメント)
新たなインフラを構築するのではなく、既存の施設やサービスを多目的に活用する。福岡県那珂川市では、地域の幼稚園を「乳幼児連れ専用の避難所」として定義し、斎場の送迎車を高齢者の移動支援に活用する検討を行っている 。

このように、地域に既に存在する「空き時間」や「遊休資産」を、民間的な発想でマッチングさせることで、ゼロ予算での課題解決を目指す。

7.3 ICTツールの戦略的導入による「時間の創出」
高価な専用システムを開発するのではなく、既存の汎用ツール(LINE、Zoom、AIチャットボット)を徹底活用する。AIチャットボットの導入により、年間540万円の経済効果が試算された戸田市の事例のように、テクノロジーによって「区長の事務時間」を削減し、その余剰時間を「住民との対話」や「将来の構想」という高付加価値業務に転換する 。

第8章 副次効果としての「アップサイクル」思想の具現化
本政策が最終的に目指すのは、物質的なリサイクルを超えた「人的資本のアップサイクル」による地域再生である。

8.1 アップサイクルの論理的枠組み
アップサイクルとは、本来であれば廃棄される、あるいは価値を失った素材に、デザインやアイデアという新たな価値を付加し、元よりも価値の高いものに再生することである 。
 * 素材(潜在的スキル): 定年退職者の専門知識、市外就業者のビジネススキル、主婦の地域ネットワーク。
 * デザイン(政策介入): 区長の権限強化、兼業化制度、民間人材とのマッチング。
 * 新価値(地域価値): 持続可能な自治体運営、伝統の現代的継承、経済循環。

8.2 人的資本のアップサイクル事例
静岡県でのハチミツビールの絞り粕を販促資材に転換する事例や、海洋プラスチックをアクセサリーにする取り組みは、地域の負の遺産を資産に変えるプロセスを示している 。

これを人的資源に適用すると、例えば「定年後の元エンジニア」が「地域の防災DX担当」へと役割を再定義されることが、まさにスキルのアップサイクルである 。

8.3 サーキュラー・ソーシャル・デザインの推進
南城市における「サーキュラー・ソーシャル・デザイン」は、資源(ヒト・モノ・カネ)を地域内で循環させ続けることを目的とする 。

区長が「アップサイクル・マネージャー」として機能し、住民の個々のスキルを地域課題に最適に掛け合わせることで、外部資本に依存しない「自己完結型」の強靭なコミュニティを構築する 。

第9章 結論:南城市モデルが拓く地方自治の未来
南城市における区長の権限強化と民間スキルのフル活用は、単なる行政効率化の手段ではない。それは、人口減少という「静かなる有事」に対し、地域に眠る潜在能力を最大限に引き出すための、生存戦略である。

9.1 期待されるインパクト
本政策の実施により、2045年の人口減少局面においても、地域機能が維持されるだけでなく、新たな付加価値が生み出され続けることが期待される。

現役世代が「区長」をキャリアの一環として選択し、民間での経験を地域に還元する循環が確立されれば、南城市は「世界で一番イノベーション人材が育つ地域」へと変貌を遂げるだろう 。

9.2 政策遂行のためのロードマップ
 * 制度基盤の整備(1年目): 事務委託契約の見直し、兼業可能規程の明文化、包括交付金の創設。
 * パイロットプロジェクト(2年目): 特定の地区で「民間人材区長」を登用し、DX化と伝統行事の効率化を実証。
 * 横展開とアップサイクル加速(3年目以降): 成果の共有、サポーター制度の全域展開、地域循環経済の確立。

南城市の政策検討の前提として掲げる「アップサイクル」の思想は、過去の伝統を否定するものではない。むしろ、伝統というかけがえのない「素材」に、現代の「スキル」という息吹を吹き込むことで、次世代へとつないでいく創造的営みである。

この挑戦こそが、日本の地方自治における新たな「スタンダード」となることを、本報告書の結論とする。 

コメント

このブログの人気の投稿

2025年南城市長選挙 政治総括レポート

本陣WEBラジオ/あがりすむ着想ラボ【基本文書編】

斎場御嶽と聞得大君の「御新下り」における當間殿の関係性