南城市における地域統治機構の再構築と社会的アップサイクルによる持続可能な地域経営戦略

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区長権限の強化と地域課題解決型タウンミーティングの実装案

南城市を取り巻くマクロ環境とコミュニティの構造的変容
南城市は、沖縄本島南東部に位置し、旧佐敷町、知念村、玉城村、大里村の4町村が合併して誕生した、豊かな自然と深い歴史的背景を持つ自治体である 。

しかし、現在の南城市が直面している課題は、単なる地方都市の衰退という言葉では片付けられない、極めて複雑な二極化構造に基づいている。

住民基本台帳上の人口は全体として微増傾向にあるものの、その内実は、那覇市に近い大里地域や佐敷・玉城の西部で都市化が進む一方で、東側の知念地域を中心に急激な少子高齢化と生産年齢人口の減少が進行しているという、深刻な地域格差を孕んでいる 。

特に旧知念村地域に代表される過疎地域では、若年層の流出が止まらず、これが集落単位での自治活動の衰退、空き家の増加、そして地域経済を支える農水産業の担い手不足へと直結している 。

特筆すべきは、知念地域で長年親しまれてきたスーパー(Aコープ)の閉店であり、店舗運営者の懸命な努力に関わらず、店じまいを余儀なくされた。これは単なる一店舗の撤退を超え、地域コミュニティの生活基盤そのものが崩壊しつつある象徴的な事象として捉える必要がある 。

さらに、南城市は県内11市の中で唯一高等学校が存在せず、高等教育機関も持たない。この「学びの不在」は、若者が地域まちづくりに関わる機会を構造的に奪い、地域との関係性を希薄化させる要因となっている 。

このような状況下で、南城市が誇る「琉球開闢の聖地」としての精神文化や、各地域に伝わる伝統芸能の継承も危機に瀕している 。

新住民の自治会未加入や行事不参加、さらには既存住民の高齢化により、地域を支える相互扶助の仕組みが限界を迎えつつある中、行政と住民の結節点である「区長(自治会長)」の役割を再定義し、地域統治のあり方を根本から再構築することが急務となっている。

南城市の地域別人口動態と課題特性
| 地域区分 | 人口動向 | 主な産業・特性 | 直面している主な課題 |
|---|---|---|---|
| 大里地域 | 増加(那覇市近郊) | 住宅地開発、都市機能 | 学校施設の不足、新旧住民の融和 |
| 知念地域 | 減少・高齢化加速 | 漁業、観光(斎場御嶽) | 生活利便性の低下、過疎脱却、伝統継承 |
| 佐敷地域 | 混在(つきしろ等) | 住宅地、文化施設(シュガーホール) | 交通網の限界、地域文化の担い手不足 |
| 玉城地域 | 緩やかな減少 | 農業、観光(城跡群) | 農業の担い手不足、観光消費の滞在化 |

区長および自治会長の権限と地位の現状:ダウンサイクルからの脱却
現在、南城市における区長および自治会長は、行政の事務補助者としての側面が強く、その負担は年々増加している。

市は広報誌の配布事務や世帯配布事務の委託料として、年間約9,041万円を区長・自治会長に支出している 。この予算規模は、地域統治における彼らの重要性を裏付けるものであるが、一方でその業務内容は「お知らせの周知」といった定型的な事務作業に偏っている。

自治会の具体的な活動内容を見ると、防犯灯の維持管理(光熱費の負担を含む)、環境美化活動、自主防災組織の運営、高齢者見守り、伝統芸能の継承など、極めて多岐にわたる 。

しかし、自治会加入率がかつての7〜8割から低下傾向にある中で、限られた会費収入とボランティア精神のみに依存した現状の体制は、もはや持続可能ではない 。

現在の区長制度は、高技能な人材が単なる「広報誌配布係」として消費される「ダウンサイクル(価値の低下を伴う再利用)」の状態に陥っている。

権限と地位を強化するためには、区長を「行政の下請け」から、地域という小規模な経済・社会圏をマネジメントする「地域CEO(経営責任者)」へとアップサイクルする必要がある。

これには、予算執行の裁量権拡大や、地域課題解決に向けた意思決定プロセスへの直接参画が含まれる。

自治会活動の構成要素と現行の負担構造
| 活動カテゴリー | 具体的な業務内容 | 財源・負担の現状 |
|---|---|---|
| 防災・防犯 | 防災訓練、自主防災組織、防犯灯維持管理 | 自治会費、市の委託料 |
| | 環境・美化 | 公園清掃、花いっぱい運動、ヤスデ駆除 |
| | 福祉・教育 | 高齢者見守り、デイサービス協力、青少年育成 |
| 行政事務代行 | 広報誌等配布、調査協力、お知らせ周知 | 市からの委託料(約9千万円) |
| 文化継承 | 伝統芸能(エイサー等)の保存、祭事運営 | 自治会費、寄付金 |

地域課題解決型タウンミーティングの共催戦略:費用最小化と効果最大化
南城市が目指すべきは、行政が一方的に情報を伝える従来の説明会ではなく、区長と行政が「共催」し、住民が主体となって課題を解決する対話の場である。

このタウンミーティングを、低コストかつ高効果な「地域経営の装置」として機能させるための戦略を以下に詳述する。

既存資源「ムラヤー」の活用によるインフラコストの削減
タウンミーティングの会場として、南城市特有の「ムラヤー(公民館等の地域拠点)」を徹底活用する。

南城市には「ムラヤー利活用戦略」が存在し、地域住民が世代を超えて連携し、住みよい地域づくりを行うための基本方針が策定されている 。ムラヤーは単なる集会所ではなく、以下の5つのモデルに基づく「地域課題解決の実行拠点」へと再定義される 。
 * 雇用創出型:地域発のビジネスを創出する。
 * 産業育成型:農業や漁業などの既存産業を支援する。
 * 伝統活用型:地域の伝統文化を保存しつつ、観光や教育に活用する。
 * 子育てサポート型:地域の力で子どもを育む。
 * 高齢者いきがい型:シニア世代が活躍する場を作る。
 * 
これらの機能をタウンミーティングの議論と連動させることで、議論だけで終わらずに具体的な「稼ぐプロジェクト」へと昇華させることが可能となる。外部の会場を借りるコストを抑えつつ、住民の当事者意識を高めることができる。

ボランティア・ファシリテーターとデジタル技術の融合
運営コストを抑える鍵は、外部コンサルタントではなく、地域内の人材活用にある。

新潟県十日町市などの事例に見られるように、意欲的な住民や地域おこし協力隊を「ボランティア・ファシリテーター」として養成し、タウンミーティングの進行を担わせる仕組みを構築する 。

また、デジタル技術の導入により、物理的な集会に伴う手間とコストを削減する。

例えば、公式LINEを活用したアンケート実施、デジタルスタンプラリーによる参加促進、さらにはAR/VR技術を用いた将来ビジョンの可視化などが挙げられる 。

これらは、若年層がまちづくりに参加するハードルを下げ、関係人口(地域外から関わる人々)を取り込むための有効なツールとなる。

「社会的アップサイクル」思想の具現化と副次効果
本戦略の根底に流れる「アップサイクル」とは、不要になったものや既存の資源に、デザインやアイデアという新たな付加価値を加え、元よりも価値の高いものに再生させる思想である 。南城市において、これを組織・社会レベルで体現することが本政策の真骨頂となる。

組織と人材のアップサイクル
既存の自治会組織や区長という役職を、単に「維持」するのではなく、新たな役割(地域プロデューサー、コミュニティマネージャー)として再定義する。

これは、建築現場の足場板を高級家具に変える手法と同様の価値転換である 。
 * 区長の地位向上:単なる「行政の連絡係」から「地域資産の管理者(Asset Manager)」への転換。
 * 住民参加の質の向上:単なる「労働力の提供(清掃活動など)」から「地域ビジネスの株主・運営者」への転換。
文化と資源のアップサイクル
南城市に眠る未利用資源や、衰退しつつある伝統を、現代的な価値(観光、教育、ウェルビーイング)として再構築する。
 * 伝統芸能の活用:久手堅や知名のヌーバレー等の地域に伝承される郷土芸能や糸数グスクなどの文化財を、単なる保存対象ではなく、デジタルコンテンツや体験型観光の素材として価値化する 。
 * 農水産業の副産物利用:仲村渠の稲作から出る藁や籾、漁業で廃棄される資材などを、アップサイクル製品や体験プログラムの素材として活用し、域外への外貨獲得手段とする 。

社会的アップサイクルの実践例と南城市への適用
| 領域 | 従来の価値観(ダウンサイクル的) | アップサイクルによる価値創造 | 南城市での展開イメージ |
|---|---|---|---|
| 産業 | 廃棄物の処理コスト削減 | 廃材を高級素材として再販 | 軽石や漂着ゴミのアート化・商品化 |
| 組織 | 役職の押し付け合い、形骸化 | 役割の多様化、スキルの発揮 | 区長の「地域経営者」化、若手の参画 |
| 文化 | 補助金による延命、義務感 | ストーリー化、ブランド化 | 琉球開闢の歴史を現代の癒やしコンテンツへ |
| 教育 | 知識の詰め込み、地域外流出 | 地域を舞台にした探究学習 | 「トリプレーション」による若者の定着 |

具体的な実施案:南城市型地域共創プロトコル
本政策を実現するための具体的なステップを、3年間のロードマップとして策定する。
フェーズ1:土壌整備と意識改革(1年目)
 * 「区長権限強化条例」の策定:
   区長の地位を、市長のパートナーとしての「地域経営責任者」と明文化する。広報誌配布事務などの定型業務をデジタル化により削減し、地域経営に割ける時間を創出する。
 * ムラヤー・アップサイクル・パイロット事業:
   特定の3自治会を選定し、ムラヤーを「コワーキングスペース+コミュニティビジネス拠点」として改修する。この際、廃材や古家具を活用したアップサイクルデザインを取り入れ、視覚的にも思想を具現化する 。
フェーズ2:タウンミーティングの共催とプロジェクト化(2年目)
 * 課題解決型タウンミーティングの全区展開:
    行政が作成した資料を説明するのではなく、各区が抱える「資産(Asset)」を棚卸しし、それをどうアップサイクルするかを議論するワークショップ形式で実施する。
 * 協働プラットフォームの稼働:
   タウンミーティングで出たアイデアに対し、市内の企業や専門家、ふるさと納税による資金をマッチングさせる「南城協働プラットフォーム」をデジタル上で構築する 。
フェーズ3:自律循環と成果の可視化(3年目)
 * コミュニティビジネスの自走支援:
   ムラヤー発のビジネス(特産品加工、体験型観光等)が収益を生み出し、その一部が自治会運営費や防犯灯の電気代として還元される仕組みを確立する 。
 * 社会的インパクト評価の実施:
   単なる経済的指標だけでなく、住民の幸福度(Well-being)、地域への愛着度、伝統継承の確実性などを数値化し、政策の効果を検証する。

結論:南城市が拓く「聖地の未来」
南城市が取り組むべきは、人口減少という抗えない流れに対し、無理に規模を追うことではない。

むしろ、今ある資源、今いる人材、今残っている伝統という「素材」に、徹底的に新たな光を当てる「アップサイクル」のプロセスそのものを、地域の新しいアイデンティティとすることである。

区長の地位強化は、単なる組織改編ではなく、住民自治という古くて新しい価値を「最高級の社会インフラ」へと引き上げる行為である。

また、タウンミーティングの共催は、低コストで最大の合意形成と行動を引き出す、極めて合理的な経営判断といえる。

この政策が奏功すれば、南城市は「かつての聖地」から、既存の価値を再生し続ける「未来型自治の聖地」へと変貌を遂げる。

それは、沖縄、そして日本が直面するコミュニティ崩壊の危機に対する、一つの鮮やかな解答となるであろう。

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