南城市における地域主導型行政改革

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区長権限の強化と地域予算枠を通じた「アップサイクル型」自治の構築

沖縄県南城市は、琉球開闢の聖地としての歴史的背景と豊かな自然環境を併せ持つ地域であり、その都市計画の根幹には「我した島沖縄の特色あるゆいまーるのまちづくり」という理念が据えられている 。

少子高齢化や過疎化が進行する現代の地方自治体において、行政サービスの効率化と住民満足度の向上を両立させることは最重要課題である。

本報告書では、南城市が掲げる「区長(自治会長)の権限・地位強化」および「地域予算枠(区長決裁枠)の創設」という政策案について、その戦略的意義、費用対効果の最大化、そして副次的な効果としての「アップサイクル」思想の具現化という観点から、詳細かつ広範な検討を行う。

地域自治の核としての区長制度と現状の分析
南城市における行政区制度は、住民に最も近い場所での自治を担う重要な基盤である。現在、南城市には約70の自治会が存在し、それぞれの地域において区長が住民の代表として、行政と住民の橋渡し役を担っている 。

しかし、その権限や地位、さらには報酬体系は、地域が直面する多様な課題を迅速に解決するには必ずしも十分な構造とは言えない。

行政区制度と区長の報酬・地位の現状
現在の区長報酬は、多くの自治体と同様に、世帯数に基づいた基本額と世帯割によって構成されている。類似の地方自治体における報酬体系を参考にすると、世帯数に応じて年額132,000円から180,000円程度の基本給に加え、1世帯あたり1,800円程度の世帯割、さらには会議出席手当などが支給されている実態がある 。

南城市においても、自治会等活動交付金を通じて運営が支援されているが、その主な使途は環境美化活動、防犯・防災活動、地域イベントの開催などに限定されているのが現状である 。

区長の役割は、行政との連絡調整、地域住民の意見集約、災害時のボランティア活動の指揮など、極めて多岐にわたる 。

しかし、現実には決定権が行政側に集中しており、区長は「要望を上げる役割」に留まりがちである。この構造は、地域課題の解決に時間を要させるだけでなく、区長職の負担感のみを強調し、若年層や現役世代が区長職を敬遠する一因となっている。地位の真の強化を図るためには、単なる経済的対価の増額(報酬の引き上げ)だけでなく、地域課題を自らの判断で迅速に解決できる「実質的な決裁権」の付与が不可欠なステップとなる。

自治会交付金の課題と法的制約
現在の自治会交付金制度は、人口割や世帯割を基礎として算定されており、使途についても細かな事務要綱に基づいた規定が存在する 。この仕組みでは、地域特有の突発的な課題や、既存の予算項目に当てはまらない創造的な事業に対して柔軟に対応することが困難である。

例えば、過疎地域(旧知念村地域)においては上限額の加算措置などの支援策が講じられているが、依然として「決められた枠内での執行」という性質を脱していない 。

また、実績報告書や会計報告の事務負担も大きく、特に高齢化した区長にとって、煩雑な書類作成は活動の活力を削ぐ要因となっている 。行政コストの観点からも、小規模な支出一件ごとに市役所が審査・決裁を行うプロセスは、非効率な「事務負担の重複」を生み出していると言わざるを得ない。

| 交付金の構成要素 | 算定基準・上限額(例) | 課題と改善の方向性 |
|---|---|---|
| 基本均等割 | 1自治会あたり一定額(例:90,000円) | 規模に関わらず発生する固定費の補填 |
| 世帯・人口割 | 4月1日時点の世帯数・人口に基づく | 増加地域と減少地域の格差是正の必要性 |
| 過疎加算 | 特定地域(旧知念村等)への上乗せ(+30〜70万円) | 地域格差への配慮だが、使途の自由度は限定的 |
| イベント補助 | 実績に基づき2分の1補助など | 事務手続きの煩雑化による実施意欲の減退 |

区長権限の強化と「地域予算枠(区長決裁枠)」の創設
南城市の「地域予算枠(区長決裁枠)」の導入は、従来のトップダウン型予算配分を、ボトムアップ型かつ地域完結型の意思決定プロセスへと抜本的に転換するものである。

これは、三重県名張市などで先駆的に導入されている「地域づくり組織」への予算執行権の付与という成功モデルを、さらに区長(自治会長)という個別のリーダーシップに結びつけた高度な地方分権の形態である 。

決裁枠の仕組みと法的根拠の構築
地域予算枠の創設にあたっては、地方自治法に基づく適切な運用ルールと、行政からの権限委譲に関する法的整理が必要となる。

名張市の事例では、地域住民全員を構成員とする地域自治組織が、市からの交付金を原資として自ら予算を編成し、執行する権限を持つ 。区長決裁枠の導入において、南城市が取るべきメカニズムは以下の通りである。

まず、予算の性質を「経費の事後精算」から「一括交付・自主決裁」へとシフトさせる。これにより、区長は道路の小規模な補修、防犯灯の増設、あるいは地域資源を活用した「アップサイクル」事業などに対して、市の担当課による個別審査を待つことなく、自らの判断で資金を投入することが可能となる 。

この迅速性は、住民が行政に対して抱く「対応の遅さ」という不満を解消し、ひいては区長の地位を「行政の代弁者」から「地域課題の解決者」へと格上げする効果を持つ。

民主性と透明性を担保するガバナンス体制
区長に決裁権を付与することへの最大の懸念は、公金の不透明な支出や、一部の住民による利権化である。これを防ぐためには、名張市のモデルに見られるような「民主性」「透明性」「参加性」の3原則を組織運営の条件として課す必要がある 。
 * 意思決定の民主化: 単独の区長による判断ではなく、若者、女性、高齢者、新旧住民がバランスよく参加する「地域理事会」等の合議体での承認をプロセスに組み込むことが重要である 。少人数の閉鎖的な会議で重要事項を決定させない仕組みを、自治会規約などで予め定めておく必要がある。
 * 透明性の確保: 予算の使途については、地域住民に対して定期的に公開し、誰がいつ、どのような目的で支出を決定したかを可視化する 。
 * 会計の適正化: 複式簿記の導入や、月1回程度の現金預金確認、外部監査(または他地域の区長による相互監査)などの仕組みを整える。事務負担軽減のため、市が共通の会計ソフトやクラウドシステムを提供し、入力作業を簡略化する伴走型の支援が求められる 。

| ガバナンスの要素 | 具体的な運用ルール | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 予算策定 | 年度開始前に地域理事会で承認 | 住民の合意形成と納得感の醸成 |
| 執行プロセス | 明確な書面(指示書)に基づく支出 | 不透明な支出の防止と責任の明確化 |
| 証憑管理 | 領収書等の永久保存またはデジタル保存 | 公金としての説明責任の遂行 |
| 情報公開 | 広報紙や掲示板、SNSでの収支公表 | 住民の監視機能と信頼の向上 |

費用を抑え効果を最大化する「戦略的自治」の展開
南城市の政策において、コストの最小化と効果の最大化は、単なる財政上の要請を超えた、持続可能なまちづくりのための「戦略」である。これは、大規模な新規インフラ整備に頼るのではなく、既存の地域資源を再定義し、住民の創意工夫によって価値を高めるアプローチである。

「低コスト・高満足度」の投資サイクル
地域予算枠を活用した事業は、1件あたりの投資額は数十万円から数百万円程度と小規模であるが、住民の切実なニーズに直結しているため、投資に対する「心理的満足度」や「地域への帰属意識」を高める効果が極めて高い。

例えば、公園に災害時にも活用できる木製のベンチを設置したり、住民の手で遊具を修繕したりする事業は、行政が業者に委託して行うよりも大幅に費用を抑えることができ、かつ住民にとっては「自分たちの手で街を良くした」という成功体験を生み出す 。

また、市の直営事業として実施する場合、設計・入札・監督といった膨大な事務コストが発生するが、地域予算枠による「小規模随意契約」や「住民ボランティアとの協働」を活用することで、中間マージンを排除し、実費のみでの事業実施が可能となる 。

この削減されたコストは、さらなる地域課題の解決に再投資されるため、財政の健全性と住民福祉の向上が正の相関関係を持つようになる。

地域資源の「アップサイクル」による価値創造
本政策の最も核心的な戦略は、物理的資源、歴史的資源、そして人的資源に至るまでを「アップサイクル」するという思想を具現化することにある。

アップサイクルとは、単なる再利用(リユース)や原料に戻すリサイクルとは異なり、元の素材の特長を活かしつつ、新しい価値やデザインを加え、より高い次元のものへと生まれ変わらせる手法である 。

南城市は、琉球王国の歴史遺産や豊かな自然環境という「一級の素材」を抱えながらも、それらを十分に活かしきれていないという課題を持っていた 。

地域予算枠は、これらの素材に住民のアイデアという「デザイン」を加え、アップサイクルするための触媒として機能する。

物理的・歴史的資源のアップサイクル
南城市内には、グスク(城跡)や聖地だけでなく、使われなくなった古い公民館、空き家、農地、さらには海岸に漂着する海洋プラスチックなどの「負の資源」も存在する。これらを価値ある資産へと転換する取り組みが求められる。
 * 歴史的建築物のアダプティブリユース:
   古民家や歴史的建造物を単なる「保存対象」として放置するのではなく、地域予算枠を活用して最低限の耐震・改修を施し、コワーキングスペース、カフェ、あるいは一棟貸しの宿泊施設(アルベルゴ・ディフューゾ形式)へと転換する。これにより、歴史的景観を維持しながら、新たな雇用の創出と外貨(観光収益)の獲得が可能となる 。
 * 廃棄物の高付加価値化:
   海岸の漂着プラスチックを素材としたアクセサリーやインテリア製品の製造、あるいは耕作放棄地から発生する籾殻を利用した再生紙(もみがらノート)の作成など、環境負荷を低減しつつ、地域独自のブランド商品を開発する。これらは「南城型エコミュージアム」のサテライト拠点で販売されることで、地域の物語を伝えるメディアとしての役割も果たす 。
 * 公共インフラのDIY的メンテナンス:
   大規模な道路工事ではなく、住民が廃材(リサイクル建材)を利用して歩道にベンチを設置したり、景観に配慮した案内板を手作りしたりする。これにより、都市計画に「ぬくもり」と「ストーリー」が加わり、画一的な公共整備とは一線を画す地域景観が形成される 。
人的資源のアップサイクル:経験と知恵の再定義
モノのアップサイクル以上に劇的な効果をもたらすのが、住民という「人的資源」のアップサイクルである。少子高齢化社会において、高齢者はしばしば「支えられる側」と見なされがちだが、彼らが持つ膨大な知恵や技術、経験は、地域自治において最も価値のある資源である。
 * 高齢者の「プロフェッショナル化」:
   かつて建設業や農業、あるいは教職に就いていた退職者を、地域予算枠で雇用する「地域技術顧問」や「文化伝承ガイド」としてアップサイクルする。彼らに適正な謝礼を支払いつつ、その専門知識を地域の小規模修繕や子供たちの教育に還元させることで、本人の生きがい創出と行政コストの削減を同時に達成する 。
 * 多様な人材の「マルチハブ化」:
   主婦、学生、あるいは移住してきたデジタルノマドなど、これまで地域自治のメインストリームにいなかった層を、地域課題の「解決デザイナー」として登用する。例えば、SNSに強い若者に地域の情報発信を一任したり、デザインスキルのある住民に地域ブランドのロゴ作成を依頼したりすることで、外部のコンサルタントに頼らない「内生的な発展」を実現する 。

「南城型エコミュージアム」との相乗効果
南城市が既に進めている「南城型エコミュージアム」構想は、地域全体を博物館と見なし、住民が主体となって資源を保存・活用するものである 。地域予算枠はこの構想を現実の経済循環へと結びつける強力なエンジンとなる。

サテライト拠点の機能強化と自立
市内各地の27の自治会をサテライトと位置づけ、それぞれの地域の宝を発掘するワークショップが進められているが、これまでは「計画」や「構想」の段階に留まることが多かった 。区長決裁枠が導入されることで、ワークショップで出た「自分たちの集落にこんな案内看板が欲しい」「あの古い拝所を整備して散策ルートに入れたい」といった住民のアイデアが、即座に予算化され、実行に移される。

この「成功体験の積み重ね」こそが、住民の主体性を育む最大の要因である。住民が自ら動き、資源をアップサイクルし、それが観光客の感動を呼び、収益として地域に還元される。この循環が確立されることで、エコミュージアムは単なる文化活動から、持続可能な地域経済システムへと進化する 。

観光と関係人口の創出
エコミュージアムを通じて磨き上げられた「生々しい日常の場」は、現代の観光客が求める「真実味のある体験(オーセンティシティ)」そのものである 。
| 観光資源のアップサイクル手法 | 具体的施策内容 | 期待される副次効果 |
|---|---|---|
| ナイトツーリズムの開発 | 伝統芸能の練習風景公開や夜のグスク散策 | 宿泊客の増加と地域消費の拡大 |
| ワークショップ型観光 | 伝統工芸(竹細工等)の体験や農作業への参加 | リピーター(関係人口)の創出 |
| 食のアップサイクル | 規格外野菜を活用した「地域食堂」の運営 | フードロス削減と住民の多世代交流 |
| デジタルガイドの導入 | AR/VRを活用した歴史遺構の復元表示 | 物理的復元コストを抑えた魅力向上 |

戦略的実施のためのガバナンスとICTの活用
区長権限の強化と地域予算枠の導入を、単なる放任に終わらせないためには、スマートな管理体制と行政の「伴走支援」が不可欠である。

ICTを活用した「透明な自治」の構築
事務負担の軽減と透明性の確保を両立させる鍵は、デジタル技術の活用にある。
 * 地域課題投稿プラットフォーム:
   住民がスマートフォンのアプリ等で、道路の破損や危険箇所、あるいは「こうなればもっと良い」というアイデアを写真付きで投稿する。区長はその投稿をもとに、地域予算枠の活用優先順位を判断し、そのプロセスを住民に共有する 。
 * デジタル地域通貨・ポイントとの連動:
   地域予算枠を活用した活動(清掃、ガイド、修繕等)に参加した住民に対し、市内で利用可能な地域ポイントを付与する。これにより、ボランティア精神だけに頼らない「感謝の循環」を経済的に裏付ける 。
 * 事務プロセスの自動化:
   領収書をスマートフォンのカメラで読み取るだけで会計処理が行われ、実績報告書が自動生成されるシステムを市が提供する。これにより、区長の最大の悩みである「書類仕事」から彼らを解放し、本来の「対面による合意形成」に注力できる環境を整える 。

行政組織のトランスフォーメーション
本政策の実施に伴い、市役所側の役割も大きく変化する。従来の「審査・管理」の役割から、地域の自走を助ける「アクセラレーター(加速支援者)」へと転換する必要がある。
 * 縦割り排除の地域担当制:
   道路、公園、福祉、観光といった各課の予算や権限を、地域予算枠を通じて横断的に調整できる「地域支援コーディネーター」を配置する。彼らは区長に伴走し、法的な助言や専門業者の紹介などを行う 。
 * 規制の「アップサイクル」:
   「できない理由」を探す従来の法解釈ではなく、地域の創意工夫を活かすための特区制度や条例の弾力的運用を積極的に検討する。例えば、公道の活用や公共施設の運営委託に関する規制緩和を行い、住民が自由に活動できる余白を創出する 。

費用対効果の検証と将来展望
本政策がもたらす効果は、短期的な「予算の効率化」に留まらず、中長期的な「地域の強靭化(レジリエンス)」に寄与するものである。

社会的・経済的効果の定量的・定性的分析
| 指標 | 予測される効果 | 算出の根拠・ロジック |
|---|---|---|
| 直接的コスト削減 | 事務手続きコストの30〜50%削減 | 行政決裁プロセスの簡略化と事務自動化 |
| 地域経済循環率 | 市外への流出抑制と地元業者活用 | 地域予算の「域内発注」優先ルールの適用 |
| 住民満足度・幸福度 | 自治意識の向上と孤立の防止 | 自己決定権の獲得によるエンパワーメント |
| 関係人口の増加 | 年間訪問者数および再訪率の向上 | エコミュージアム化による体験価値の向上 |

「南城モデル」の普遍性と独自性
南城市が目指すこの政策は、日本中の地方自治体が直面している「行政の限界」を突破するための先進的な試みである。それは、既存のモノや人を「資源」として再定義し、デザインと権限付与によって「アップサイクル」していくという、新しい時代の自治の形である。

このモデルは、琉球開闢の地という、ゼロから国を創り上げた南城市の歴史的DNAとも深く共鳴している。「ゆいまーる」という伝統的な助け合いの精神を、現代の「予算執行権」と「デジタル技術」という翼でアップグレードし、持続可能な未来へと繋いでいく。

結論:令和の「ゆいまーる」による地域再生
南城市における区長権限の強化と地域予算枠の創設は、単なる行政改革の枠を超えた「地域社会のリブランディング」である。それは、住民一人ひとりが「自分の街の経営者」となり、身の回りにある全ての資源に新しい命を吹き込む「アップサイクル」の旅に他ならない。

費用を抑えながらも、住民の創意工夫という無限の資源を掛け合わせることで、効果を最大化する。この戦略は、今後の人口減少社会における地方自治の標準(スタンダード)となる可能性を秘めている。南城市が、歴史と自然、そしてテクノロジーを融合させたこの「アップサイクル型自治」を成功させることで、沖縄から日本全体へ、そして世界へと、新しい自治の希望を発信することになるだろう。

住民が誇りを持ち、歴史が現代の価値として息づき、全ての資源が循環し続ける「我した島南城市」。その実現に向けた第一歩は、区長という地域リーダーに信頼と権限を託し、住民と共に「宝」を磨き上げるという、勇気ある決断から始まるのである 。

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