南城市における地域統治モデルの再構築:地域担当職員制度
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区長権限の強化と地域担当職員制度による「行政アップサイクル」の実現に向けた戦略的提言序論:南城市が直面する自治の転換点
南城市は、美しい自然環境と豊かな歴史的背景を持つ沖縄県有数の自治体であるが、日本全体の潮流である少子高齢化、人口減少、そしてそれに伴う地域コミュニティの機能低下という課題から免れることはできない。
現在、南城市には72の自治会(区)が存在し、それぞれの地域において住民自治の最小単位として機能している 。
しかし、社会構造の変化に伴い、従来の「行政がサービスを提供し、住民がそれを受け取る」という二元論的な構図は限界を迎えつつある。
本報告書では、南城市が持続可能な発展を遂げるための核心的戦略として、区長(自治会長)の権限および地位の抜本的な強化、そして「地域担当職員」の専属配置を中心とした統治機構の刷新を提案する。
この戦略は、単なる組織改編に留まらず、限られた財政的資源と人的資源を最大限に活用し、コストを最小化しながら市民の幸福度(ウェルビーイング)を最大化することを目指すものである。
その理論的支柱となるのが、既存の資源に新たな価値を付加して再生させる「アップサイクル」の思想である。
行政におけるアップサイクルとは、旧来の制度や余剰となった人的資源、あるいは見過ごされてきた地域資産を、現代のニーズに合わせて再定義し、より高次元の価値を持つ「資本」へと変換することを指す。
南城市が持つ「門中」や「組」、「模合」といった伝統的な社会資本を、最新のデジタル技術や行政フレームワークと融合させることで、他都市には真似できない独自の「南城モデル」を構築することが本提言の最終的な目的である。
第1章:南城市における地域統治の現状分析と財政的基盤
南城市の現状を理解するためには、まず区長および自治会の立ち位置を整理する必要がある。
現在、72の区長は市長から正式に「区長」として委嘱を受け、行政事務の一部を担っている 。これは法的側面で見れば、行政の補助機関としての性格と、住民自治組織の代表としての性格を併せ持つ「二面性」を有していることを意味する。
1.1 現行の委託事務とコスト構造の検証
南城市は現在、区長および自治会長に対し、広報誌等の配布事務委託料として一定額を支出している 。
さらに、配布物運搬委託料も計上されている。
この予算を72の自治会で均等に割ると、一組織あたり年間130万円から140万円程度に過ぎない。
この資金の多くは、広報誌の配布や事務的な諸経費に費やされており、地域独自の課題解決や活性化のための「投資的経費」としては認知されていない。
現在の構造は、既存のルーチンワークを維持するための「維持管理コスト」としての性格が強く、新たな価値を生み出すための「資本」として機能していない点が大きな課題である。
1.2 伝統的社会資本の潜在価値
南城市の強みは、金額換算できない「目に見えない資産」にある。沖縄独自の「門中(ムンチュー)」や「組(クミ)」、「模合(モアイ)」は、単なる親睦会ではなく、高度な相互扶助システムである 。
これらの伝統的な絆は、都市部では失われつつある「顔の見える関係性」を担保しており、これを現代の行政課題(独居高齢者の見守りや防災など)に適切に接続することができれば、行政コストを大幅に抑制しながら、より精度の高いセーフティネットを構築することが可能となる。
現状では、これらの社会資本と行政組織が「点」でしか繋がっておらず、「面」としてのシナジーを生み出せていない。
アップサイクルの思想に基づけば、これら伝統的なネットワークを、デジタル化された「共助プラットフォーム」へと昇華させることが求められる。
第2章:区長(自治会長)の権限・地位強化の戦略的アプローチ
区長の権限を強化することは、行政の負担を地域に押し付けることではない。それは、地域が自らの意思で未来を決定し、実行できる「経営能力」を付与することである。そのためには、法的、財政的、そして社会的な地位の向上が不可欠である。
2.1 認可地縁団体化による法的自立の推進
現在、多くの自治会は「任意団体」として活動しているが、これを「認可地縁団体」として法人格を取得させることを全市的に推進すべきである。
地方自治法の改正により、現在は不動産保有の有無に関わらず法人格の取得が可能となっており、さらには団体同士の合併規定も整備されている 。
法人格を取得することで、区長は「法人の代表者」としての法的地位を確立し、団体名義での契約締結が可能となる。
これは、行政との対等なパートナーシップを築くための最低条件である。
また、令和6年9月から施行された「指定地域共同活動団体制度」を活用することで、市町村長が地域の多様な主体と連携する団体を指定し、より広範な事務を委託できる道も開かれている 。
2.2 地域予算提案権と決定権の付与
区長の地位を実質的に強化するためには、予算に対する裁量権を持たせることが最も効果的である。現在の事務委託料を「地域デザイン予算(仮称)」として再定義し、区長が地域の創意工夫で活用できる枠組みを構築する。
| 権限強化の次元 | 具体的施策内容 | 期待されるアップサイクル効果 |
|---|---|---|
| 法的次元 | 認可地縁団体化の完全実施、法人格による契約主体の確立 | 「単なる協力者」から「経営の責任者」への昇華 |
| 財政的次元 | 地域予算の提案・決定権の付与(小規模多機能自治) | 予算の「一律配分」から「課題解決型投資」への転換 |
| 組織的次元 | 区長会を「地域経営会議」へと改組し、政策決定への参画を強化 | ボトムアップによる都市計画・施策立案の実現 |
| 社会的次元 | 区長専用のデジタルプラットフォーム提供、活動の可視化 | 社会的信用の向上と次世代の担い手の確保 |
三重県名張市や島根県雲南市などの先進事例では、小学校区単位の組織に予算決定権を付譲することで、住民が自ら「何が本当に必要か」を議論し、不要な支出を削りながら真に必要な事業(コミュニティバスの運営や買い物支援など)を立ち上げている 。
南城市においても、区長が単なる広報の配布役ではなく、地域の「CEO」として機能するための財政的裏付けを提供することが、長期的には行政全体のコスト削減に寄与する。
第3章:地域担当職員の専属配置:行政と地域の「結節点」の創出
区長の権限を強化する一方で、地域が抱える課題は複雑化しており、住民組織だけで全てを解決することは困難である。
ここで重要となるのが、行政の専門知識と地域のニーズを橋渡しする「地域担当職員」の存在である。
3.1 全国的な導入状況と南城市への適用
全国調査によれば、地域担当職員制度を導入している自治体は345団体に上り、九州・沖縄地域でも33.3%の自治体が実施している 。
導入している自治体の多くは、住民との「顔の見える関係」の構築(61.7%)や、地域の意向・要望の把握の容易化(67.5%)に大きな成果を感じている 。
南城市においては、72の自治会を個別に担当するのは現実的ではない。
そこで、小学校区単位(数個の区を統合したエリア)に「地域経営拠点」を設置し、そこへ専属の地域担当職員を配置する。
この職員は、特定の課の業務をこなすのではなく、地域の「伴走者」として、あらゆる相談に対応する。
3.2 「縦割り」の解体と「専属」の意味
従来の地域担当職員制度で多く見られる失敗は、本庁の業務と地域業務の「兼務」による疲弊である。
本提言では、これを「完全専属」あるいは「大幅な兼務解除」として配置することを強調する。
| 配置モデル | 特徴 | 利点 | 課題と対策 |
|---|---|---|---|
| 兼務型 | 本庁業務を行いながら地域も担当 | 人員確保が容易 | 地域活動が後回しになりやすい |
| 専属配置型(推奨) | 地域に常駐、または週の半分以上を地域で活動 | 住民との深い信頼関係、迅速な課題解決 | 既存業務の整理とDXによる工数捻出が必要 |
| 外部人材活用型 | 地域おこし協力隊等を配置 | 外部の視点、民間ノウハウの導入 | 制度終了後の継続性確保が重要 |
専属配置を低コストで実現するためには、本庁における定型業務を徹底的にデジタル化し、そこで浮いた工数を「地域への投資」として振り向ける必要がある。
これは人的資源のアップサイクルであり、机に座って書類を処理するだけの職員を、現場で価値を生み出す「プロデューサー」へと変貌させるプロセスである。
第4章:費用を抑え効果を最大化する「スマート自治」戦略
コストを抑えながら効果を最大化するためには、テクノロジーの活用と、既存の社会システムを再利用する知恵が求められる。
4.1 デジタル・トランスフォーメーション(DX)による効率化
地域担当職員の活動を支え、区長の負担を軽減するために、デジタルツールの活用は不可欠である。
福島県会津美里町や京都府舞鶴市の事例では、「kintone」などのツールを導入することで、現場の情報を即座に組織の動きに繋げ、業務の最適解を導き出している 。
南城市においても、以下のデジタル化を推進すべきである:
* 電子回覧板の導入: 従来の紙ベースの配布事務を削減し、情報の即時性と双方向性を確保する 。
* オンライン総会・電子投票: 委任状の回収や集計の手間を省き、意思決定を迅速化する 。
* 地域課題ダッシュボード: 地域担当職員がスマホで現場の状況(道路の破損、倒木、高齢者の異変など)を投稿し、本庁とリアルタイムで共有する。
これらのデジタル化は、物理的な移動コストや印刷コストを削減するだけでなく、蓄積されたデータを分析することで、将来の行政需要を予測する「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の基盤となる。
4.2 外部人材の戦略的活用と「官民複業」
コスト抑制のもう一つの鍵は、市独自の雇用に頼らない人材確保である。総務省の「地域活性化起業人」や「地域おこし協力隊」を積極的に活用し、都市部の民間企業のノウハウを地域に注入する 。
さらに、南城市出身の定年退職者や、市外に住む南城市ファンを「関係人口」として組織化し、プロボノ(専門スキルを活かしたボランティア)として地域活動に参画してもらう。
これは、人的資源を「所有」するのではなく「共有」する思想であり、固定費としての公務員人件費を抑えつつ、高度な専門性を確保する戦略である。
第5章:副次効果としての「アップサイクル」思想の具現化
「アップサイクル」とは、本来捨てられるべきものに新しい価値を見出し、元の製品よりも高い価値を持つものに作り変えることである。この思想を地域政策に適用することで、南城市のあらゆる資源が蘇る。
5.1 社会的資源のアップサイクル:門中・模合の現代版
伝統的な「門中」や「組」は、かつては家系の存続を目的としていた。これをアップサイクルし、「地域を守るセーフティネット」として再定義する。
例えば、門中や組のつながりを活用した高齢者の見守り活動は、既存の信頼関係があるため、行政が新たにシステムを作るよりも遥かに浸透しやすく、効果的である。
「模合」も同様である。単なる飲み会や小規模な金融互助をアップサイクルし、地域の小規模起業を支える「マイクロ・コミュニティ・ファンド」へと発展させる。行政がこの模合のネットワークを「クラウドファンディング」や「ソーシャル・インパクト・ボンド」と結びつけることで、地域内での経済循環を活性化させることができる。
5.2 物理的資源のアップサイクル:公共施設の多機能化
市内に点在する公民館や公共施設は、現在の利用率が必ずしも高くない場合がある。これらをアップサイクルし、地域担当職員の拠点、コワーキングスペース、さらには「特定地域づくり事業」を通じた複業人材の活動拠点として多機能化する 。
図書館もしかりである。現在は、児童・生徒の放課後学習に利用されているが、土日は空いているのが現状である。また、担当部署でも積極的に活用を進めてもいない。
廃校となった学校や空き家を、移住者向けのシェアハウスや地場産品の加工場として再生させることは、物理的な資産のアップサイクルである。これにより、負の遺産となりかねない空き施設を、新たな税収を生む「資産」へと変換する。
5.3 人的資源のアップサイクル:職員と住民のパラダイムシフト
職員にとって、地域担当としての活動は、机上の事務から解き放たれ、市民の「ありがとう」に直接触れる機会となる。
これは、仕事のやりがい(エンゲージメント)を向上させ、離職防止や組織の活性化に寄与する人的資本のアップサイクルである 。
住民にとっても、区長の権限強化を通じて「自分たちの手で町を創っている」という実感が得られることは、無関心から当事者への意識のアップサイクルである。
この意識の変化こそが、長期的に見て最大の「行政コスト削減」となる。住民が主体的に活動する地域では、防犯や美化活動が自然に行われ、行政が介入する必要がなくなるからである。
第6章:リスク管理とガバナンスの制度設計
権限委譲と専属配置には、一定のリスクも伴う。これらを適切に管理するための仕組みが、戦略の持続可能性を担保する。
6.1 不正・独裁の防止
権限が区長に集中することによる私物化を防ぐため、認可地縁団体の定款に「透明性のある会計報告」や「民主的な意思決定プロセス」を明文化することを要件とする。
地域担当職員は、地域の応援団であると同時に、行政としての「ガバナンスの監視役」としての役割も担う 。
また、デジタルツールの導入により、予算の使途を住民全員に公開する「オープンガバメント」を推進する。誰が、いつ、何のために地域予算を使ったかを可視化することが、最大の抑止力となる。
6.2 依存心の抑制と自立の促進
地域担当職員が熱心に活動しすぎると、住民が職員に頼り切りになり、自立を妨げる「依存のリスク」がある 。
これを回避するため、地域担当職員の役割を「決定者」ではなく「伴走者(ファシリテーター)」に徹底させる。あくまで決定を下すのは区長を中心とした住民組織であることを明確にし、職員の評価指標も「住民がどれだけ動いたか」というプロセス評価に重点を置く。
6.3 職員のメンタルヘルスと労働環境
地域担当職員は、住民の要望や不満を直接受けるため、心理的な負荷が大きい。休日の会合出席など、勤務時間が不規則になりやすいという課題もある 。
これに対し、市役所全体での「フレックスタイム制」の導入や、地域活動に従事した時間を平日の勤務時間から差し引くなどの「代休制度」の徹底を図る。
また、地域担当職員同士の「ピアサポート(相談し合える場)」を設け、孤独な戦いにならないよう組織でバックアップする体制を整える。
第7章:具体的アクションプランと期待される効果
本戦略を実現するためのステップと、それによって得られる成果を時系列で整理する。
7.1 フェーズ1:基盤整備(1〜2年目)
* 制度設計: 区長権限強化のための条例改正、地域担当職員の設置要綱の策定。
* 組織改革: 本庁業務のDX化を断行し、地域担当職員10名程度を専属配置するための定員管理計画を策定。
* 認可地縁団体化の加速: 法格取得を希望する自治会へのコンサルティング支援。
* デジタル基盤導入: 電子回覧板、地域課題共有ツールの試験導入。
7.2 フェーズ2:モデル実施と横展開(3〜5年目)
* モデル地区の稼働: 小学校区単位で3箇所程度のモデル拠点を設置し、地域担当職員を配置。
* 地域予算の執行開始: 区長提案による地域課題解決事業の公募・実施。
* 外部人材の本格導入: 地域活性化起業人や協力隊を拠点に配属し、民間ノウハウによる事業化を支援。
* 中間評価: 活動成果をデータで分析し、全市展開に向けたブラッシュアップを行う。
7.3 フェーズ3:南城モデルの完成と発信(6年目〜)
* 全市展開: 全小学校区への拠点配置と専属職員の配属完了。
* 行政コストの最適化: 従来の事務委託料や維持管理費が、地域主導の活動によって削減される効果を確認。
* アップサイクルの定着: 門中・模合をベースとした共助システムが自律的に回り始める。
* 全国への横展開: 「南城モデル」として他自治体への視察受け入れ、政策パッケージとしての提供。
7.4 期待される定量的・定性的効果
本戦略の実施により、以下のような効果が期待される:
| 指標 | 予測される変化 | 根拠となるメカニズム |
|---|---|---|
| 行政コスト | 長期的に15〜20%の削減 | 住民による共助活動の活発化、不要な公共事業の抑制 |
| 住民満足度 | 30%以上の向上 | 課題解決の迅速化、身近な「顔の見える」相談相手の存在 |
| 関係人口・移住者 | 年間純増数の拡大 | 地域の魅力(食・伝統)のブランド化、活動拠点の整備 |
| 防災力 | 避難訓練参加率の倍増 | 自治会主導の「地区防災計画」の策定と実践 |
| 職員満足度 | 意欲的な若手職員の増加 | 現場での裁量権付与、直接的な社会貢献実感の向上 |
結論:南城市の挑戦が日本の未来を拓く
南城市が目指す「区長権限の強化」と「地域担当職員の専属配置」は、単なる地方自治の小手先のテクニックではない。それは、私たちが「公」というものを誰に委ね、どのように作り上げるかという、民主主義の根本的な問い直しである。
既存の資源を捨て去るのではなく、その歴史や文脈を尊重しながら、現代の知恵(デジタル、民間ノウハウ、外部人材)を掛け合わせる。
これこそが、本報告書が提言する「行政アップサイクル」の本質である。
南城市に脈々と受け継がれてきた「ゆいまーる(助け合い)」の精神を、21世紀の統治機構として再設計することで、コストを抑えながらも、どの都市よりも豊かで、しなやかな地域社会を実現することができる。
この挑戦は容易ではない。
組織の抵抗、住民の戸惑い、失敗のリスクも当然あろう。しかし、現状維持という緩やかな衰退を選ぶのではなく、自らの手で未来をアップサイクルする道を選ぶこと。それこそが、南城市が沖縄の、そして日本の自治の先駆者となるための唯一の選択肢である。
本提言が、南城市の新たな物語の第一章となり、市民一人ひとりが地域の主役として輝く未来を切り拓くことを切に願う。
(本報告書における重要論点の再整理)
* 区長のCEO化: 広報配布人から、地域予算を操る経営者への地位向上。
* 職員のプロデューサー化: 書類仕事から、地域と行政を繋ぐ専属の伴走者への役割転換。
* 資産のアップサイクル: 門中、組、模合、図書館、廃校、空き家、そして定年退職者のスキルを「新・地域資本」として再定義。
* デジタル・ガバナンス: ICTを活用した透明性と効率性の確保、そしてデータに基づくスマートな意思決定。
*
これらの要素が有機的に結合したとき、南城市は世界に誇れる「サステナブル・スマート・シティ」としての地位を確立するだろう。行政が「管理」するのではなく、地域が「自律」する。そのための「仕掛け」を今、南城市の手で動かし始める時である。
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