南城市における地域統治(ガバナンス)の再定義と区長制度の抜本的刷新

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特別職公務員化、デジタル変革、および「アップサイクル」思想による地域資産の価値高度化に関する包括的検討報告書

1. 序論:人口減少下における南城市の地方自治とコミュニティの変容
日本全体が人口減少と少子高齢化という構造的な転換期にある中、沖縄県南城市においても、地域コミュニティの維持と行政サービスの質的確保は極めて深刻な課題となっている。

南城市は、美しい自然環境と豊かな伝統文化を維持しながらも、都市化と過疎化が混在する地域特性を有しており、その統治において「区(自治会)」が果たす役割は極めて大きい。

しかし、現行の区長(自治会長)制度は、社会構造の変化に伴い、その持続可能性が大きく揺らいでいる。

本報告書は、南城市における政策検討として、区長の権限と地位を劇的に強化し、従来のボランティアベースの「奉仕」から、法的根拠に基づいた「特別職公務員」への任用へと舵を切る必要性を論じるものである。

この変革は、単なる処遇改善に留まるものではない。最小の財政支出で最大の行政効果を創出するための戦略的DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入と、既存の地域資源を再定義し新たな価値を付加する「アップサイクル」思想の具現化を主眼に置いている。

南城市の自治体経営において、区長という存在は、住民と行政のインターフェースとして機能する「最前線の統治資産」である。しかし、この資産は現在、過重な事務負担と不透明な身分保障によって、その価値が毀損されつつある。本検討では、この「毀損されつつある資産」を、制度設計とテクノロジー、そして新たな政策思想によって再定義し、高付加価値な地域経営の主体へと進化させるためのロードマップを提示する。

2. 南城市における現行自治組織の構造的課題と財政的背景
南城市における区長の設置および運営は、「南城市区長設置規則」および「南城市自治会活動交付金交付要綱」によって規定されている 。

現行制度下において、区長は市の施策の周知、地域住民の意見集約、さらには環境美化や防災・防犯活動の中心的役割を担っている。

しかし、その活動を支える財政的・制度的基盤は、現代の複雑化した地域課題に対応するには不十分であると言わざるを得ない。

2.1 南城市の歳入構造と地域支援予算の現状
南城市の令和6年度一般会計予算案を見ると、歳入総額は約280億円に上り、その中で地方交付税が約71億円(25.3%)を占める重要な財源となっている 。

一方で、区の活動を支える自治会活動交付金などの地域支援予算は、全体の予算規模からすれば限定的であり、その使途も厳格に管理されている。

令和6年度の補正予算においても、利子割交付金や環境性能割交付金などの変動が見られる中、地域コミュニティ維持のための予算配分は、依然として「現状維持」の域を出ていない 。

| 予算・交付金項目(令和6年度南城市) | 予算額(千円) | 性質および役割 |
|---|---|---|
| 一般会計歳入総額 | 28,021,368 | 市全体の活動原資 |
| 地方交付税 | 7,100,000 | 財政調整機能を持つ主要財源 |
| 配当割交付金 | 9,024 | 県からの税連動型交付金 |
| 環境性能割交付金 | 13,822 | 補正後の環境税関連交付金 |
| 自治会活動交付金 | (内訳項目) | 各区の運営および活動支援 |

現行の交付金制度では、区長の個人的な労働や専門的な知見に対する正当な対価としての性格が弱く、あくまで「団体の活動支援」という枠組みに留まっている。このことが、区長職が「負担のみが大きい名誉職」と見なされる要因となっており、なり手不足を深刻化させている。

2.2 業務の過重化とリスクの顕在化
区長の職務は、行政情報の配布や回覧といった「伝達業務」から、高齢者の見守り、避難行動要支援者名簿の管理、災害時の避難誘導といった「人命に関わる業務」へとシフトしている。

しかし、これらの業務が「私的なボランティア活動」の延長線上で行われているため、事故が発生した際の責任の所在や公務災害としての認定が極めて曖昧である 。

実際に、過去の災害時には避難誘導中の自治会長が犠牲になるケースも発生しており、福島県や宮城県では公務災害として認定された事例があるが、これらは個別の申請と認定プロセスを経てようやく認められるものであり、あらかじめ身分が保障されているわけではない 。

このような「責任の重さと保障の希薄さ」の乖離が、地域統治の持続可能性を阻害している。

3. 区長の法的地位強化:地方公務員法第3条第3項第3号の適用と身分保障の法理
本政策検討の核心は、区長を「私人としての協力者」から「特別職公務員(非常勤職員)」へとその法的地位を転換することにある。これには、地方公務員法第3条第3項第3号(以下、3号職員)の規定を活用することが現実的かつ法的整合性の高いアプローチとなる。

3.1 3号職員の適用要件と厳格化への対応
平成29年の地方公務員法改正により、3号職員の要件は厳格化された。現在は、以下の3要件をすべて満たす必要がある 。
 * 専門的な知識経験又は識見を有すること。
 * 当該知識経験等に基づき事務を行うこと。
 * 事務の種類が、助言、調査、診断又は総務省令で定める事務(あっせん等)であること。

南城市において区長を3号職員として任用するためには、従来の「何でも屋」的な職務記述書を廃止し、専門的な地域調査や行政への助言を行う職能として再定義する必要がある。

具体的には、ハザードマップの地域適合性診断、独居高齢者の福祉ニーズ調査、地域振興計画に対する専門的意見の陳述などを「公務」として明文化することが求められる 。

3.2 身分保障がもたらす統治の安定
特別職公務員への任用は、以下の3つの側面において区長の地位を強化する。
 * 公務災害補償の自動適用: 公務遂行中の負傷や疾病に対し、条例に基づく補償が明確化され、家族を含めた安心感が醸成される 。
 * 権限の法制的根拠: 行政事務の一部を執行する際、単なる「お願い」ではなく、法律や条例に裏打ちされた公権力の行使(またはその補助)としての正当性が付与される。
 * 守秘義務と責任の明確化: 公務員としての守秘義務を課すことで、住民の個人情報を取り扱う際の信頼性が向上し、行政とのデータ連携が円滑化される。

| 項目 | 現状(私的団体の代表) | 特別職公務員(非常勤) |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 自治会規約、交付金要綱 | 地方公務員法、市条例 |
| 災害補償 | 任意保険、個別申請 | 公務災害補償条例による保障 |
| 守秘義務 | 倫理的義務、個人情報保護法 | 地方公務員法上の守秘義務 |
| 職務内容 | 連絡、調整、奉仕 | 調査、診断、助言 |

4. 先進事例との比較検討:宮崎県都城市の自治公民館長制度とその課題
南城市が目指すべきモデルを検討する上で、既に自治公民館長を準公務員的な位置づけで運用している宮崎県都城市の事例は、極めて示唆に富んでいる 。

4.1 都城市における運用の実態
都城市の自治公民館長は、地域の推薦や選挙によって選出され、一定の手当(報酬)を得て活動している。しかし、その実態は「担い手不足」と「高齢化」という深刻な問題に直面している。アンケート調査によれば、館長の54.4%が70歳代であり、60歳代以上を含めると9割を超える 。また、選出理由の多くは「順番」や「他にいないため」といった消極的なものであり、なり手を探すことが極めて困難な状況にある 。

| 都城市自治公民館長の実態指標 | 数値・データ |
|---|---|
| 年齢構成(70歳代以上) | 54.4% |
| 年齢構成(60歳代) | 38.0% |
| 選出方法(推薦・話し合い) | 52.0% |
| 主な負担感の理由 | 高齢化、行事への参加要請、地区のつながり希薄化 |
| 年間報酬(10万円〜15万円未満) | 19.9%(最多層) |

都城市の事例から明らかなのは、単に「手当」を支給し、地域の慣習に任せるだけでは、現代の就労環境や価値観の変化に対応できないという点である。特に共働き世帯や現役世代が区長を担うためには、活動時間そのものを劇的に削減する「構造改革」が不可欠である。

4.2 南城市への教訓と差別化戦略
南城市が都城市の二の舞を避けるためには、以下の3点において差別化を図る必要がある。
 * 「作業」からの解放: 紙の配布や物理的な集金といったアナログ事務を完全にデジタル化し、実働時間を最小化する。
 * 専門職としてのリブランディング: 「地域の雑用係」ではなく、市の政策立案に寄与する「地域経営マネージャー」として位置づける。
 * 身分保障の明文化: 曖昧な「準公務員」ではなく、条例に基づく「特別職公務員」として法的に固定し、誇りと責任を付与する。
5. 費用対効果を最大化する戦略的DX(GovTech)の導入
「費用を抑え、効果を最大化する」という戦略目標を達成するための唯一かつ最強の武器は、デジタルテクノロジーの活用である。従来の行政運営では、人海戦術に頼っていた事務を自動化・効率化することで、財政的な持続可能性と区長の負担軽減を同時に実現する。

5.1 事務委託費の削減と効率化の事例
日本各地の自治体では、DXによる劇的な効率化が実証されている。例えば、栃木県宇都宮市では電子申請システムの導入により、窓口の混雑緩和と職員の事務負担軽減を実現している 。また、千葉県君津市では、ドローンを活用した橋梁点検を職員が直接行うことで、外部委託費を大幅に削減している 。
南城市においても、区長が担っている以下の業務をデジタル化することで、多大な「隠れた人件費(ボランティア労働)」を削減できる。
 * 広報配布のデジタル化: 紙の広報誌やチラシを全世帯へ配布する作業を、LINEや専用アプリによる一斉配信に切り替える。宮崎県都城市ではLINEによる問い合わせ対応を導入し、業務効率を大幅に向上させている 。
 * 電子決済による会費徴収: 自治会費の集金を対面からキャッシュレス決済や口座振替に移行する。これにより、区長の最大の精神的負担である「集金と現金管理」から解放される 。
 * オンライン申請・報告の完結: 行政への報告書類や視察研修の申請などをクラウド上で完結させる。北見市の「書かない窓口」や香川県土庄町のクラウド型電子決裁システムの導入事例が参考となる 。

5.2 投資対効果(ROI)の最適化
区長を特別職公務員化し、報酬を月額数万円引き上げるには、市全体で年間数千万円から数億円の予算が必要となる可能性がある。これを単なる「経費」として支出するのではなく、DXへの「投資」として位置づける。

| 投資項目 | 想定コスト | 期待される効果(効果の最大化) |
|---|---|---|
| 特別職報酬の増額 | 中 | 区長のモチベーション維持、優秀な人材の確保 |
| 共通デジタルプラットフォーム導入 | 小〜中 | 物理的配布コスト、集金工数の全廃 |
| データ連携基盤(DMP)の構築 | 中 | EBPMに基づく迅速かつ的確な政策立案 |
| リモートワーク・オンライン環境整備 | 小 | 移動時間と交通費の削減、迅速な意思決定 |

静岡県掛川市のサテライトオフィス活用や、京都府のペーパーレス化・テレワーク推進の事例が示すように、場所と時間に縛られない働き方を地域自治に導入することで、現役世代の参画障壁を下げることが可能となる 。

6. 「アップサイクル」思想による地域資産の再定義と具現化
本政策の副次効果でありながら、長期的な地域価値を高める最重要コンセプトが「アップサイクル」思想である。アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずの製品に、デザインやアイディアという付加価値を持たせ、別の新しい製品にアップグレードすることである 。

6.1 行政組織と地域コミュニティのアップサイクル
地方自治において、自治会(区)という組織は、しばしば「古臭い、非効率、若者の負担」といった、いわば「廃棄されるべき旧来のシステム」として扱われがちである。しかし、これを「資源」として再定義し、新たな機能(権限・デジタル・身分保障)を付け加えることで、全く新しい価値を持つ統治組織へと再生させることが、行政におけるアップサイクルである。
 * 素材(既存の区): 長年培われた地縁、住民同士の信頼関係、歴史的文脈。
 * デザイン(特別職公務員化): 法的権限と専門職としての地位。
 * 機能(DX): デジタルによる超効率的な運営能力。

これらを組み合わせることで、従来の「行政の下請け」であった区は、自律的に地域課題を解決し、価値を創出する「地域経営のハブ(拠点)」へと生まれ変わる。これは、廃漁網を高付加価値な鞄へとアップサイクルする事例と同様の論理である 。

6.2 物理的・空間的なアップサイクル事例の応用
茨城県土浦市が閉校した小学校を公文書書庫や教育相談室として再利用した事例や、長野県が県立図書館を「学びの創造ラボ」としてリノベーションした事例は、空間のアップサイクルとして参考になる 。南城市においても、各区にある公民館を単なる集会場から、テレワーク拠点、防災司令塔、さらには地域の「アップサイクル製品」の展示・販売拠点へと機能を拡張させることで、地域資産の稼働率と価値を最大化させることができる。

6.3 循環型経済とコミュニティの融合
北海道上士幌町の家畜ふん尿を資源とするバイオガス発電や、食品ロスをクラフトビールにアップサイクルする企業の取り組みは、地域資源の循環が経済的価値を生むことを示している 。

南城市の各区においても、地域の未利用資源(農産物の規格外品、伝統工芸の端材など)を区長が中心となってプロデュースし、ブランド化していくことは、特別職公務員として「専門的な識見」を発揮する絶好の機会となる。

これにより、区の活動資金を自ら生み出し、行政からの交付金に過度に依存しない「自立型コミュニティ」への移行(アップサイクル)が可能となる。

7. 政策の社会的・経済的波及効果:EBPMとロジックモデルによる分析
本政策の導入効果を客観的に評価するためには、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の視点が不可欠である。

京都市などで活用されている「ロジックモデル」を用い、投入(インプット)から成果(アウトカム)に至る論理過程を整理する 。

7.1 ロジックモデルによる構造化
 * 投入(インプット): 特別職公務員化に伴う予算、デジタル基盤整備費用、条例改正のための事務工数。
 * 活動(アクティビティ): 区長の任用、デジタルツールによる事務の効率化、地域資源の調査・助言業務の実施。
 * 出力(アウトプット): 事務処理時間の削減数、オンライン申請率、地域課題調査報告書の提出数。
 * 成果(アウトカム):
   * 短期的: 区長の負担感軽減、なり手不足の解消、行政情報の到達スピード向上。
   * 中長期的: 地域の防災レジリエンスの強化、行政コストの抑制、地域コミュニティへの住民参加率の向上。
   * 究極的(インパクト): 南城市全体のウェルビーイング向上と「アップサイクル統治モデル」の全国発信。

7.2 データ連携基盤による政策の高度化
兵庫県加古川市や石川県羽咋市が進めている「スマートシティ・データ連携基盤」の構築は、地域統治の科学化を可能にする 。区長がデジタルツールを通じて収集する地域の微細なデータ(高齢者の活動状況、道路の損傷、ごみの散乱状況など)を市全体のデータ基盤に統合することで、迅速かつ的確な行政サービスの提供が可能となる。これは、最小の資源で最大の住民満足度を引き出すためのEBPMの具現化である。

8. 南城市における具体的な制度設計と実施ロードマップ
本政策を現実のものとするためには、法制度、技術、組織、そして住民感情の4つの側面を調和させた実施計画が必要である。

8.1 段階的実施計画(3ヶ年計画)
第1年度:制度設計と意識改革のフェーズ
 * 「南城市区長公務員化検討委員会」の設置。
 * 南城市区長設置規則を廃止し、「南城市区長条例(特別職公務員任用条例)」を制定。
 * 3号職員としての職務定義(地域診断・助言)の明確化。
 * 公務災害補償制度の整備と周知 。

第2年度:デジタル基盤の構築と試験導入のフェーズ
 * 自治会専用アプリおよび共通データ基盤の導入。
 * モデル地区を選定し、広報配布の完全デジタル化とキャッシュレス集金を試行。
   * 区長へのデジタルリテラシー研修の実施(高齢者デジタルサポーターの活用) 。
 * 行政視察研修補助金交付要綱の柔軟化による、先進地視察の促進 。

第3年度:全面展開と「アップサイクル」の具現化フェーズ
 * 全市的な区長の特別職公務員任用の完了。
 * デジタル化による事務委託費の削減効果の検証と、余剰予算の地域プロデュース活動への転換。
 * 「南城市アップサイクル・コミュニティ・アワード」の開催による、地域資産活用の奨励。

8.2 課題と対策
最大の問題は、既存の区長や住民の中にある「デジタルへの抵抗感」と「公務員化による自由度の喪失への懸念」である。これに対しては、以下の対策を講じる。
 * アナログの段階的廃止: 完全に紙をなくすのではなく、デジタルを活用する区には「デジタル加算」を行うなど、インセンティブ構造を設計する。
 * 職務の明確化: 公務員としての義務(守秘義務等)が課される一方で、地域独自の活動を制限しない「柔軟な公務員像」を確立する。
 * 事務局機能の強化: 区長個人に負担を集中させないよう、市役所内に「地域DX支援チーム」を設置し、技術的なバックアップを全面的に行う。

9. 結論:持続可能な地域統治モデルとしての「南城市モデル」の確立
南城市における区長制度の改革は、単なる組織のマイナーチェンジではない。それは、明治以来続いてきた「行政の補完組織としての自治会」というパラダイムを、デジタル時代の「地域経営を行うプロフェッショナル組織」へとアップサイクルする壮大な実験である。

区長を特別職公務員として任用し、身分を保障することは、地域社会を支える「人」への最大の敬意であり、投資である。これを戦略的なDXによって支えることで、財政的な負担を抑制しつつ、行政サービスの質を飛躍的に向上させることが可能となる。

本政策を通じて実現される「アップサイクル」思想の具現化は、南城市を「課題先進地」から「解決先進地」へと変貌させるだろう。

既存の古い仕組みを壊すのではなく、その中に眠る「信頼」や「地縁」という美しい素材を活かし、現代のデザインとテクノロジーで包み直す。

この「南城市モデル」こそが、人口減少社会における地方自治の希望となり、日本の未来を照らす道標となると確信している。

本検討の結果に基づき、速やかに具体的な法整備と予算措置に着手することを推奨する。地域統治の再生に「待った」は許されない。

今、この瞬間から、南城市の新たな歴史を創り出すアップサイクルの旅が始まるのである。

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